エヌエヌ生命への業務改善命令

金融庁が、2023年2月17日にエヌエヌ生命に行政処分を行った。

 

  業務改善命令

 

を発出したわけであるが、金融庁の意向はこの命令の最後にまとめられている。すなわち、『当庁からの(中略)報告徴求命令において、(中略)保険募集の実態に係る調査結果や態勢上の問題点が適切に報告されておらず、当社における自主的な改善は十分に期待できない』という部分である。簡単に、「

 

あなたの会社は自浄能力がないので、
金融庁が介入して改善します

 

」と言い換えてもよいであろう。

私事になるが、エヌエヌ生命は、その前身であるアイエヌジー生命の時代に、私が勤務していた会社である。そして、同社の商品開発を担当していた私は、金融庁が指摘した内容に同意せざるを得ない。

一番の問題は、保険の果たす社会的役割であろうと思う。本来、保険とは、人々が保険料を負担することによって、何かあったときにその金銭的損失を補償し、あるいは、将来の生活・活動のためのまとまった資金を準備する手段である。そういった社会的役割があるから保険が大切な金融商品として認められ、それを運営する保険会社に社会的な役目が与えられている

ところが、過度な節税目的の保険商品は、税を逃れるためだけの目的の手段になってしまっている。そういった保険商品に社会的な役割はない

二番目の問題は、社内力学とでもいうべきものである。私が商品開発を担当していた時代でも、営業部門からの圧力はあった。『少しでも返戻率が高く、少しでもコミッションの高い商品』というのが常套句であり、『(税制上)損金処理できる割合が大きい保険はなお歓迎』といった要望もついていた。

営業部門の反対勢力は、数理・企画部門である。営業部門と数理・企画部門の双方の合意点は、収益性であった。その商品を作って収益が上がるのか、エンベディッド・バリューなどを計算して、黒字化が見込めるものを商品化していた。それゆえ、節税が期待できる商品であっても、収益性が見込めない商品は却下されていた。しかし、これらの

 

部門間のバランスが崩れてしまうと、
営業部門の要望に引きずられた商品が開発される。

 

営業部門の要望は、営業部門の文化に支配されている。営業の文化は、成功体験によって培われる。私が在籍していた当時、同社の成功体験は、「逓増定期保険を使った節税商品を販売する」というものだった。そして、それが唯一絶対の成功体験であった。ソニー生命、プルデンシャル生命のように直販部門を強化しようとしたときもあった。変額年金保険や投資信託委託会社を作って資産運用商品を強化しようとした時期もあった。しかし、それらはいずれもうまくいかず、結局、節税商品が同社の営業の文化として残っていったと私は認識している。

 

金融庁の業務改善命令であっても、
そういった営業の文化を変えるのは難しいかもしれない

 

そう考えると、業務改善を実行することは、企業文化を改革することにほかならず、思っている以上に難事であることが予想できる。保険契約者がいるため会社を清算することも現実的な解決策になりえないとすれば、もっとも、可能性があるのは、企業買収(M&A)ということになるであろう。

 

異なる営業文化を持った保険会社が買収するのがよい

 

と思う。

ところで、エヌエヌ生命は、代理店制度を採っているが、代理店の責任は追及されないのであろうか。私の知る限りでは、プロ代理店や税理士事務所などのチャネルが主要な販売チャネルであったと思う。適切な募集をする責務は、代理店にもある。

 

  法人に対するコンサルティングの中で、保険が一つのツールとして存在するのはよいが、コンサルティングの解決策が、あらかじめ節税保険として決まっているようなコンサルティングであれば、そちらも業務改善が必要

 

である。

この記事は、週刊インシュアランスに掲載されたものを、出版社の許可を得て転載したものです。保険関係者に好評の生命保険統計号もこちらからご購入いただけます。

イ ンシュアランス掲載記事

 

生命保険と意思決定支援~後半

前半はこちら

例えば、『長年加入していた終身保険を解約するかどうか判断する』ことを考えてみよう。自分で判断できないのであれば、誰かに相談して、どのようにするか決めるしかない。

「終身保険の解約返戻金が900万円で、保険金額は1,000万円」といったような情報を取り寄せて、解約と契約継続の差異を説明する。「保険料の支払方法が終身払であるなら、保険料払込期間を変更して同時に減額する」といった選択肢を見つけ出す。こういった対応は保険の知識の備わったFPが担当するのがよいであろう。

一方、認知レベルの低下した人に対しては、簡単な図を用い、あるいは、意思決定を補助する道具などを使って説明を行うことが必要になる。福祉施設の職員が得意とする分野である。

成年後見制度を利用する予備軍と考えるとわかりやすいと思うが、この人たちに対して金融商品に関する意思決定の支援をする人や組織は希薄である。

シニア世代のために必要なことは、意思決定の代理ではなく、意思決定の支援である。生命保険は、その入り口(新契約)については保険会社だけで対応できるが、その出口(保全)については生命保険会社だけでは対応することが難しい

意思決定の支援のためには、ご本人の意思の表出が必要であり、意思が表出できないときはその意思を推定する必要がある。そしてそのためには、日ごろから継続してご本人にコンタクトしておく必要がある。見知った人であれば、ご本人の意思をより正確に把握することができる。

介護・医療サービスの担当者や、行政サービスの担当者などが考えられる。成年後見制度を利用していないシニアであっても、日ごろ付き合いのある介護・医療あるいは行政の担当者から要請のあったFPなどの金融の知識を持った人が支援に加わることにより、意思決定支援がよりスムーズに行われるはずである。

その際、保険会社が、(1)ご本人以外の人からの要請に応じてデータを提供する(2)意思決定支援にかかる費用の一部を負担することができれば、生命保険は、本当の意味で“生涯保障”を謳う金融商品といえる。

この記事は、週刊インシュアランスに掲載されたものを、出版社の許可を得て転載したものです。保険関係者に好評の生命保険統計号もこちらからご購入いただけます。

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