2018年の市場から考えること

この記事は、インシュアランス生保版に掲載したもので、2019年の初頭に執筆したものです。

2018年、日本株式は約20%値を下げた。ドイツ株式も同じように20%値を下げた。そして、中国株式は28%、米国株式は6%値を下げた。値を下げた理由の一つに、米国と中国の貿易摩擦がある。2018年の後半になって米国のトランプ大統領が中国製品に追加で関税をかけると言い始めたからだ。中国から米国に輸出されるものは、農産物や鉄鋼だけではない。アップルのiPhoneだって中国から米国に輸出されるものである。企業はコストを削減するために、できるだけ製造コストの安い地域で生産したい。自由にものを輸出入できるのであれば海外でも構わない。だから、アップル社の製品の多くは中国や台湾で製造されている。また、中国から輸入する鉄鋼が関税により値上げされると、米国内の車の価格に跳ね返ってくる。

米国への輸出が制限された中国では事態はもっと深刻になる。企業の成長が鈍化することにより経済成長が鈍化する。中国内の消費が冷え込む。ドイツは中国にたくさんの車を販売している。だから、中国が風邪をひくと、ダイムラーやフォルクスワーゲンも風邪をひく。自動車産業は、いうまでもなくドイツの基幹産業である。ドイツの経済は私たちが思う以上に中国に依存している。ドイツの株式が低迷する理由である。もちろん、日本も影響を受ける。ドイツやアメリカと比べて、日本は中国により近い位置にある。日本の貿易対手国の輸出の第2位、輸入の第1位は中国である。

世界の株式市場は深く結びついている。だから、米中の関税問題は、日本や欧州の株式市場にも影響を及ぼす問題になる。株式での動きは、株式の動きにとどまらない。世界中で株価が低迷すると、投資家は資金を避難させる。株式市場と同規模の市場は一つしかない。それは債券市場である。債券市場に市場が避難することになると、債券は売り手市場になる。つまり、債券の価格は上昇する。債券の価格が上昇すると金利が下がる。これは、ファイナンスの基礎知識である。金利の別名はイールドである。

短期金利をコントロールするのは中央銀行の役割である。短期金利を調整することにより、市場のメカニズムでその影響は長期金利にも及ぶといわれている。日本の中央銀行は日銀。米国の中央銀行はFRB(連邦準備制度理事会)このFRBは、2015年から金利を緩やかに引き上げ初めており、2019年も引き上げるとみられている。ただし、前述のとおり、世界の株式市場が低迷して債券市場に資金が大規模に流入することになれば、景気が悪化することを意味しており、金利を引き上げる余地は少なくなる。

縦軸に金利(イールド)、横軸に時間(残存期間)をとり、債券のイールドをプロットしてつなぎ合わせたものをイールドカーブという。イールドカーブは、通常は、右肩上がりになる。残存期間が延びると金利が上がるという意味である。ところが、景気が悪化すると考えられる時には、逆イールド(右肩下がり)になる。現在の米国債のイールドカーブは、ほぼ水平(フラット)である。

為替市場は、米国の金利に影響される。米国の金利が上昇すれば、その金利上昇を狙って資金は米国に集まる。つまり、米ドル高になる。円を中心に考えると円安ということになる。この状態は新興国にとってはありがたくない。なぜなら、自国の資金が吸い上げられて、米国に投資されるからである。日本との関連で考えると、外貨建て保険である。米国の高い金利を目指して日本の資産が移動することになる。この部分だけで考えると、円安の要因ということになる。日本の場合、新興国と異なり、多少の資産が海外に移動しても問題はない。一方で、別の要因で円高になることがある。それは、景気が悪化した時である。米ドル、スイスフラン、日本円は資金の避難先になる場合が少なくない。

株式と債券と為替。それぞれが別に動いているのではなく、大きな枠組みの中で連動しながら動いている。