ファイナンシャルプランナー(FP)が行う「相談」について考えてみたい。本質的なところから話を始めたいので、「『相談』は何のためにするのか」という問題から始めたい。相談した側は、何らかの成果を得て相談を終わりたいだろう。問題は、「その成果が何か」ということである。私は、成果は2つあると思っている。一つは、『行動プラン』を手に入れること、そして、もう一つは『安心プラン』を手に入れることである。いずれかをしっかりと提供することができれば、その相談は成功だと思う。
FPのみなさまが相談を受けたら、相談者についてきっとたくさんのことを知りたいと思うだろう。相談は、そこから始まっていく。でも、30代の人に、「あなたが60歳になったときのことを予想してください」といってもわからないだろうし、「ご主人の年収を教えてください」、「ご両親のことをもっと詳しく教えてください」と話しても、『いきなりそんなに個人的なことまで話したくない』と思われるかもしれない。
ここで、取りうる選択肢は2つある。次回の面談のアポイントメントを採って、早々に切り上げる方法。もう一つは、相談者を説得しようとする方法。「僕はFPの資格も持っていて、MDRTなんです。今まで、数百人の方の相談を受けて、みなさまに満足いく結果をお返ししてきました」という具合である。こうなったケースは何件も聞いている。自分のアピールばかりで相談になっていない。もちろん、望ましいのは、次回のアポイントメントを採って早々に切り上げること。
相談者が自分であると置き換えて考えてほしい。私であれば、いきなり初見の人に自分のプライベートをべらべら話すことはしない。何度か面談をしていくうちに、相談者との関係が出来上がってくる。そして、そのころには知りたかった情報は、自ずと収集できていることがほとんどである。
そしてもう一つ、相談者がなぜ相談に来たのかも理解できているはずである。実は、相談しに来るといっても、相談の目的が明確になって相談に来るケースは少ない。自分がなぜ相談に来たのかわからないケースもある。無理やり連れてこられたというケースもある。だから、面談を繰り返して、やることは、その相談の意味付けである。何のための相談かがわからなければ、解決策にもたどり着けないわけである。
残念ながら、こうすれば相談の定義づけをできるというマニュアルはない。相談者に応じて、無駄な回り道をしながら、相談者と相談の意味付けを作り上げていくことが求められる。
さらに、大切なことは、「相談者は保険の相談に来ているとは限らない」ということを理解しておくことである。保険の相談はFPのところに来る相談の一部であって全部ではない。しかし、FPを見渡すと、その7~8割は保険関係者という事実がある。これは大切なことで、相談を受ける側が、相談者の相談を、勝手に保険の相談にしないことが大切である。
その相談の意味付けができたと思ったら、相談者のいる前で、その内容を文字に置き換えるとよいだろう。五感で一番強いのは視覚である。だから、これまで考えたことを、目に見える形にしておくことはとても大切である。相談のマイルストーン(節目)といっても過言ではないだろう。私の場合、文字だけではなく、図なども含めてホワイトボードに描いていき、最後にできあがったものを、写真で撮ることが多い。もちろん、相談者にも写真を撮ってもらう。
これは私の感覚かもしれないが、パソコンで打った文字よりも、手書きの文字のほうが記憶に残る。そして、相談者自身がホワイトボードに何か書き込んでくれたなら、それはより確かなマイルストーンになると思う。
相談の全般を通じて、相談の中心は相談者であるということを意識したほうがよい。相談を受ける側は、どうしても、自分の持っている知識やノウハウを提供したいという衝動に駆られると思うが、専門家としての意見の披露は小出しにして、相談者の意思を引き出すように心がけたい。
この記事は、「週刊インシュアランス」に掲載したものを、出版社の許可を得て転載したものです。