収益性と存在価値~後半

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さて、もう一方の側面、「組織を維持する」ということを考えてみたい。生命保険会社の、組織としての存在価値と言い換えることができるだろう。『生命保険は助け合いの精神・・・』といわれることがあるが、相互扶助の考え方などはこちらの側面が強い。もっとも、国全体としての相互扶助ということになると、行政の仕事ということになる。生命保険会社の役割の一つは、ある特定のグループ内における相互扶助ということになるだろう。そして、特定の職業や業種に限定するのであれば『共済』ということになり、より範囲を絞ってしまうと少額短期保険ということになるのだろう。

相互扶助を超えたところにある、生命保険会社の存在価値は何だろう

社会環境の変化の中で、人々がよく生きるために、人の生死にかかわるサービス等を提供すること』といった感じになるだろう。サービス等の中には、生命保険商品の販売が含まれることは言うまでもないが、それだけではない

例えば、高校生や大学生に金融教育の機会を提供して、社会全体の金融知力の向上に寄与することも含まれる。スポーツイベントを主催または後援し、地域社会の発展に貢献することも含まれる。現在の社会環境のしくみを解き明かし、将来の構造の変化を予想することも含まれるであろう。

組織としての存在価値を一言で表すものとして、ミッションステートメント(行動指針)がある。

一例を挙げてみよう。

『お客様の信頼をあらゆる事業活動の原点におき、「安心と安全」の提供を通じて、豊かで快適な社会生活と経済の発展に貢献します。』(東京海上日動火災保険株式会社)

『コミュニティを作り出し、世界を相互にもっと近づけるためのパワーを提供する』(メタ・プラットフォームズ:筆者訳)

いずれの会社のミッションステートメントにも、取り扱っている商品の記述はない。ただし、東京海上日動では「安心と安全」、メタ・プラットフォームズでは「コミュニティ」と、どのような分野(事業領域)で活動しているかは記載されている

ミッションステートメントに描かれていることは、その企業が、将来にわたってどのような成長を目指しているのかのロードマップである。そして、長期的な成長を維持するためには現時点で、投資家の評価を受けるために収益性を確保しなければならない。二つの側面を同時に追うことは企業のミッションなのである。

 

この記事は、週刊インシュアランスに掲載されたものを、出版社の許可を得て転載したものです。保険関係者に好評の生命保険統計号もこちらからご購入いただけます。

イ ンシュアランス掲載記事

 

収益性と存在価値~前半

生命保険会社を二つの側面から考えてみたい。一つは、収益を挙げるという営利企業としての側面もう一つは、組織を維持するという側面である。

収益を挙げるためには、売り上げを上げる必要がある。製造業と異なり、形のないものを売る生命保険ビジネスは、売り上げが販売担当者の力量に依存する側面が強い。だから、販売担当者(募集人)の教育に注力する。

利益率の高い商品を売ることも大切なことである。かつては、単に保険料収入が高いというだけで評価されていたが、その保険の生み出す将来価値までも踏まえた収益性(エンベデットバリューのようなもの)で評価するようになった。収益性を表示して販売推進するわけではないので、コミッションを通じて、商品ごとに推進の度合いに差をつける

新商品も収益性の観点から位置付けることができる。同じ商品を販売し続けると、商品説明のスキルが上がる、募集人ごとの説明力のムラがなくなるといった良い面があることは事実である。しかし、新たなマーケットの開発の余地がなくなる、募集人のモチベーションが下がるなどの欠点もある。だから、新商品を投入する。それゆえ、新商品は、全く新しいコンセプトというより、既存の商品の改良版のほうが好まれる。時代より半歩先を行く新商品が受け入れられやすいと思う。

続く

この記事は、週刊インシュアランスに掲載されたものを、出版社の許可を得て転載したものです。保険関係者に好評の生命保険統計号もこちらからご購入いただけます。

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