シニアに必要な経済的備えを考える~後編

前半はこちら

メットライフ生命が、2021年9月に公表した「「老後を変える」全国 47都道府県大調査 2021」によれば、「老後の備えに必要な金融資産と自らが想定する金額」の平均値は、2,853万円である。そして、「現在の保有金融資産額」の平均値は1,183.5万円である。老後に必要なお金は、どの数字を使うかによって大きく異なるのである。

シニアのお金の問題を考えるとき、これらのギャップをどのように埋めるのか、その手段が問われる場面が多い。FP的な発想で話をすると、家計の節約ということになるだろう。確かに、日々の支出を抑える節約は、長期的に見ればその効果は大きい。しかし、過度な節約は生きていることの楽しみを奪ってしまうだろう。

資産運用もその解決策の一つである。65歳から19年、24年という期間を考えるのであれば、長期投資ともいえる。ただし、年金収入しか安定した収入がないなかで、どれだけのリスクを採ることができるのかは問題となってくる。さらに、認知機能の問題もある。長期的に運用している途中、認知機能の低下により運用に関する意思決定ができなくなったときどのように対応するのかは大きな問題である。

働けるうちは働きたいという願いは、シニアに共通のものかもしれない。継続して働くことは、節約と同じで長期的に見ればとても大きな効果をもたらす。社会の役に立っているという幸福感、やりがいのようなものを感じながら、生活が改善されるのであれば、とても効果が高い。

シニアにとって大切なことは、必要となる老後資金がいくらになるかということよりも、現在ある資金と3つの手段(節約、資産運用、労働)を使って、どの程度の期間、満足いく生活を送ることができるのかを考えることである。これまでの成果ではなく、これからの実践がより大切と言い換えることができるかもしれない。

この記事は、週刊インシュアランスに掲載されたものを、出版社の許可を得て転載したものです。保険関係者に好評の生命保険統計号もこちらからご購入いただけます。

イ ンシュアランス掲載記事

シニアに必要な経済的備えを考える~前編

生命保険文化センターの2021(令和3)年度「生命保険に関する全国実態調査(速報版)」が公表された。生命保険文化センターの調査資料は、生命保険にかかわる多くの必要な情報を、継続的に調査されているという点で、非常に有用な資料である。

この調査の項目の中に、「夫婦の老後生活に対する経済的備え」という項目がある。質問事項は、「夫婦の老後生活資金として公的年金(厚生年金、国民年金など)以外に必要と考える資金額」である。60歳から64歳までの期間(60歳代前半)と65歳以降の期間(シニア期間)に分けて、それぞれ必要額を質問している。令和3年度の調査によれば、60歳代前半の月額の平均値は20.2万円(年額242万円)、シニア期間については16.1万円(年額194万円)であった。

それでは公的年金は、どの程度の受け取ることができるのかといえば、厚生労働省が「厚生年金保険・国民年金事業年報」という統計を公表している。令和元年度の資料を参考にすれば、厚生年金保険の第1号被保険者(民間の事業所に勤務する人)の平均年金月額は14.6万円と公表されている。国民年金の平均年金月額は5.6万円である。夫婦二人で考えて、妻が専業主婦であったとするならば、月額20.2万円と計算できる。

生命保険に関する全国実態調査の調査と合わせて考えれば、シニア世代の夫婦が必要と考える生活費(月額)は、16.1万円+20.2万円=36.3万円と推定できる。この数字は、シニア世代のライフプランを考えるときの出発点となる数字である。

不足分の16.1万円から、単純な計算をしてみよう。16.1万円×12か月=193.2万円。年あたりの不足額は193.2万円と計算できる。65歳の男性の平均余命は約19年である。193.2万円×19年=3,670.8万円となる。夫婦で考えると、女性のほうが平均余命は長い。65歳の平均余命は約24年。24年-19年=5年は女性一人で生活すると考える。不足分は16.1万円から12万円に減ると仮定しよう。そうすると、女性が一人で生きていくときの不足額は12万円×12か月×5年=720万円と計算できる。合算すると、3,670.8万円+720万円=4,390.8万円と計算できる。割引率も考えず、これだけあれば嬉しいという水準の金額なので、4,390.8万円という金額は、若干、水増しされた金額といえるかもしれない。

続く

この記事は、週刊インシュアランスに掲載されたものを、出版社の許可を得て転載したものです。保険関係者に好評の生命保険統計号もこちらからご購入いただけます。

イ ンシュアランス掲載記事