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私は、ルール・ベースから、プリンシプル・ベースに、組織が切り替わらない理由は、受けてきた教育や企業文化に原因があると感じている。ルール・ベースの対応では、『正しいことは何ですか』と尋ねることが正解である。そして、数十年前にさかのぼれば、正しいことは、先生や先輩が教えてくれた。しかし、プリンシプル・ベースの対応をしようとすると、『正しいことは自分たちで考えてください』ということになる。以前より多様化したライフスタイル、情報伝達の高速化、不正確な情報の蔓延、超高齢化社会の到来といった社会環境のなかで、正しいことを考えることは骨が折れる。というより、『無条件で正しいことはもはやない』と考えるべきであろう。そうすると、“一定の条件のもとに正しいこと”が存在するというのが正確な表現になる。
金融庁がルール・ベースでは顧客本位の業務運営に対応できないといっているのと同じ理由で、金融機関自身もルール・ベースでは対応できないという結論になるだろう。そうすると、判断が求められるのは、現場で金融商品を取り扱う担当者ということになる。担当者が、自分の対応する顧客という条件の下で、正しいと考える行動をとることが求められることになる。
「新商品の取り扱い開始前に、支店に集められて新商品説明会に参加して、新商品のセールスポイントをいくつか頭に叩き込んで営業する」というスタイルでは、残念ながら、プリンシプル・ベースの法令順守には対応できないだろう。報告書にも、「顧客のライフプラン等を踏まえて」という文言が入っているが、求められるのは、顧客のニーズに応じた提案ができるかという点にある。間違いたくないのは、「平均すると老後の必要資金は2,000万円です」とか、「入院の自己負担額の平均は1日当たり1万5千円です」といった内容はライフプランではないということである。『その人にこれから発生するであろうライフイベントを予測し、それを金額で見積もって、将来のお金に関する予測を可視化するのと同時に、お金に換算できない情報も示唆し、長期的な意思決定ができる環境を整備する』というのが、「顧客のライフプラン等を踏まえる」という内容になるのだろう。
この記事は、週刊インシュアランスに掲載されたものを、出版社の許可を得て転載したものです。保険関係者に好評の生命保険統計号もこちらからご購入いただけます。