金融ジェロントロジー~後編

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金融ジェロントロジーにおける、主要なテーマは、「意思決定支援」である。シニア期には、加齢とともに認知機能が低下していくなかで、私たちは、日常的な生活の中で、あるいは人生に1回しか訪れない意思決定をしなければならないことが多くなる。典型的な意思決定支援は、成年後見制度である。成年後見制度は、本人による意思決定機能を放棄して、後見人等による意思決定支援を行う制度である。「認知機能が低下して、銀行口座からお金を引き出すことができなくなった」ので成年後見制度を利用するようになったという話はよく耳にする話である。意思決定支援において大切なことは、その人の代わりになってやってしまうというのは、最後の手段であるということである。意思決定支援が必要ということと、その人の意思がなくなるといことは全く異なる。人は生きている限り、意思を持ち続けている。その意思を最大限に尊重するというのが意思決定支援という概念になる。

ICT技術を使って意思決定支援を行うことも考えられる。タブレット端末におおきな読みやすい文字で、質問を投げかけ、その質問に答えると最適に近い解決策に誘導されるというようなシステムは、金融ジェロントロジーの領域である。資産運用の世界では、「ロボアドバイザー」などがこれに該当するであろう。ただし、ロボアドバイザーは一方通行のものである。できれば双方向のコミュニケーションが確保されるものがより求められる。

ところで、双方向のコミュニケーションにはコストがかかる。それを解決するのもICT技術かもしれない。Zoomのような会議ツールや、昨今注目されている仮想空間(メタバース)は双方向のコミュニケーションに大きく寄与できるものである。こういった機能が、実際に会って話をするコミュニケーションに置き換わると考えるのではなく、実際のコミュニケーションを強化するものになるのであろう。

この記事は、週刊インシュアランスに掲載されたものを、出版社の許可を得て転載したものです。保険関係者に好評の生命保険統計号もこちらからご購入いただけます。

イ ンシュアランス掲載記事

 

金融ジェロントロジー

ジェロントロジー”という言葉を聞いたことがあるだろうか。日本応用老年学会によれば、『老年学(ジェロントロジー)は、人間の加齢変化や社会に内在する問題を研究し、高齢社会のあらゆる課題を解決するための新しい学問』と定義されている。ジェロントロジーが注目されるにようになったことの背景は、人生100年時代といわれるように寿命が延びたこと、そして、その結果として高齢者の数が増えたことによる。

高齢社会対策を推進することを目的にしている高齢社会対策基本法では、「社会参加」、「地域社会」、「健康」の3つを基本理念として掲げている。この法律では、前文で、「雇用、年金、医療、福祉、教育、社会参加、生活環境等に係る社会のシステムが高齢社会にふさわしいものとなるよう、不断に見直し、適切なものとしていく必要」を指摘しているが、これは私たちの日常社会生活全体でシニア(高齢者)の問題を考える必要があることを意味している。つまり、現在の日本では、どのような社会問題を考えるにしてもシニアの意向は無視できないだから、ジェロントロジーの視点が必要になってくるというわけである。

金融ジェロントロジーという言葉もよく耳にするようになった。この言葉は、すでに述べてきたジェロントロジーの金融版といえるべきものである。健康寿命とは、WHO(世界保健機関)によって提唱された新しい健康指標で、「日常生活に制限ない期間の平均」のことを指す。健康寿命の考え方そのものはジェロントロジーの領域に含まれるものであるが、「資産にも寿命がある」と指摘されることが多い。資産を取り崩していくと、いつかは資産が底をつく。これが資産寿命といわれるものである。健康寿命を延長できるようにするのと同時に、資産寿命も延長できるようにしなければならない。資産寿命の話は、金融ジェロントロジーの入り口である。日本の金融資産の3分の1は、70歳以上の人が保有しており、2035年にはその割合は4割に達するとみられている

続く

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