就業不能保障保険へのニーズの変化~その2

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さて、協会けんぽが公表しているデータから、傷病手当金を分析してみると興味深いことがわかる。それは、傷病手当金の支払い件数の第1位は「精神及び行動の障害」であり、約3割がこの分類に該当する。さらに、細分化してみると、全体の2割弱を占めるのは「気分(感情)障害」であることがわかる。「気分(感情)障害」の代表的な疾患は、うつ病と双極性障害(躁うつ病)である。支払い件数の第2位は、「新生物」である。約2割弱がこの分類に該当している。

年代別に見ていくとさらに興味深いことがわかる。それは、若年層ほど「気分(感情)障害」の比率が高く、高齢になると「新生物」の比率が高くなっていることである。20代前半では、「気分(感情)障害」が58%、「新生物」が2%である。その比率が逆転するのは、50代後半である。50代後半になると、「気分(感情)障害」が19%、「新生物」が25%となって、その比率が逆転する。現役世代であるならば、就業不能状態に陥る原因として、私たちが最初に考えなければならないのは、“うつ病”に代表される「気分(感情)障害」なのである

もう一つデータを追ってみよう。それは、「気分(感情)障害」のウェイトがこれほどまで大きくなったのはいつからだろうか?ということである。実は、20年少し前の平成10年には、その比率は5%程度であった。これは疾病の分類が19あるうち上から6番目の順位である。それが、5年後の平成15年には10%を超え(4番目/19分類)10年後の平成20年には20%を超え、19分類中最も高い比率になった

就業不能保障保険が販売され始めた時には、“がん”になったときの備えのために加入するというのが主流であったかもしれないが、現在では、“うつ病”になったときの備えのために就業不能保障保険に加入するというのが主たるニーズになってきていると考えることができる。保険会社にとって、就業不能保障保険の支払いの認定は以前よりずっと難しくなっているだろう。“がん”を診断確定するより、“うつ病”を診断確定するほうが難しいからである。契約者側に立つと、就労不能状態になったときに必要なものは何かを改めて整理する必要がある。医学的・社会的リハビリを含め新しい生活に切り替えるための一時的な資金をサポートしてくれるのが就業不能保障保険と位置付けると、保障金額を抑えることができ、その結果、過度に高い保険料を支払う状態を回避できる。

この記事は、週刊インシュアランスに掲載されたものを、出版社の許可を得て転載したものです。保険関係者に好評の生命保険統計号もこちらからご購入いただけます。

インシュアランス掲載記事

 

就業不能保障保険へのニーズの変化~その1

コロナウィルスから回復した後も、「倦怠感」や「呼吸困難」といった後遺症が残ってしまうということが報告されるようになった。そのような後遺症が原因で仕事に行けなくなることも考えられる。いわゆる、『就業不能状態』である。『就業不能状態』になったときに、保障を提供するものが、就業不能保障保険である。かつては、団体保険のマイナーな商品といった位置づけであった、就業不能保障保険が、注目されるようになったのは、ライフネット生命が「就業不能保険」を積極的に販売し始めたころだろうと記憶している。

現在では、多くの会社が就業不能保障保険を発売しているが、当然ながら、その商品内容は少しずつ異なっている。ライフネット生命の「働く人への保険2」では、入院している場合や、病気やけがの治療で医師の指示により在宅療養をしているときに給付金を受け取ることができる仕組みである。アメリカンファミリー生命の「給与サポート保険」でも、入院または在宅療養の場合に給付金を支払う仕組みになっている。「給与サポート保険」では、在宅療養は2つに分類されており、医師による治療が継続している状態で自宅から外出するのが困難な状態と障害基礎年金の受給要件を満たしていると認められる状態である。

就業不能保障保険のカバーする領域は、公的保障のカバー領域とも重複している。健康保険の給付である傷病手当金と、国民年金・厚生年金の給付になる障害年金の給付である。サラリーマンが就業不能状態になったという場合には、就業不能保障保険より先に、傷病手当金を考えるのが一般的であろう。就業不能保障保険は、公的保障を補完する位置づけと考えられる。

この記事は、週刊インシュアランスに掲載されたものを、出版社の許可を得て転載したものです。保険関係者に好評の生命保険統計号もこちらからご購入いただけます。

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