介護保障を考える

介護特約のチラシが届いた

先日、案内が届いた。中を開けてみてみると、「特約コースのご案内」とある。新がん特約、新三大疾病特約とあって、さらに、介護特約とあった。介護特約500円、1000円とある。介護のことが心配という年代に入った私にとって、この保険料で介護保険に加入できるのであればありがたいと思った。

ところが、その下の保障欄を見てみると、「長期入院〇〇円」とか、「手術〇〇万円・△△万円」とある。ここで少し疑問に思ったのは、『介護特約とあるけど、長期入院特約とどこが違うのだろう』ということ。それではと自分で考え直したのは、介護特約の中身である。私たちは、介護保険(特約)に何を期待しているのだろう。

わたしたちが介護保険に期待するもの

介護される状態になったときに、お金が受け取れるのが介護保険のイメージである。問題は、「介護される状態」の定義である。入院して病院で寝たきりになった。一時的な寝たきりも含めるだろうか?きっと私たちがどうしても保障したいのは、ずっと寝たきりになったときのことである。どれくらい保障してほしいのか、できれば生きている限りずっと保障が続いてほしい。でも、年金で受け取る分を、先に一時に受け取っても変わらないと考える人も少なくないであろう。そうすると、年金で受け取るのと一時金で受け取るのとあまり差はないようにも思える。

入院すると受け取れるという保険は、数十年前ならともかく、今はうれしくない。現在、介護は医療の一部と考えるのではなく、生活の一部と考えられている。私たちがよく名前を聞く「特別養護老人ホーム(特養)」も生活をする場所であって、医療機関ではない。私たちが思っている以上に入院の機会は減っている

そう考えると、介護保険に対するイメージ(=私たちが期待するもの)は、『かなり深刻に介護が必要になったときに、年金でも一時金でもいいから受け取ることができる保険』というものだろう。500円や1000円でこの保障を持たせることは不可能。そう考えると私に郵送されてきたチラシに載っていた介護特約は、保障内容は私たちの期待には遠く及ばないものの、その本の一部を提供するものということになる。「これで、介護特約といっていいのだろうか?」という問いかけは、ファイナンシャルプランナーに向けられるものかもしれない。

保障額は3,000万円か、月額35,000円か

保障する金額がいくらであれば足りるのかという問題も大きな問題である。もちろん保障額は、それだけを考えるのであれば、大きいほうがよい。ただし、保障にはコスト(保険料)が伴う。そうすると、保障額を抑えることが、コストの削減につながる。参考になる数値を2つ提示する。

一つは、生命保険文化センターが発行している「平成30年度生命保険に関する全国実態調査」。この調査によれば、要介護状態になったときの公的介護保険の範囲外の費用に対して必要と考える費用の合計は2,983万円である。約3,000万円と考えられる。

そしてもう一つは、同じ生命保険文化センターのウェブサイトに掲載されている「実際にかかる介護費用はどれくらい?」というページ。具体的な公的介護保険の負担額が載っている。要介護3のケースで、月額の自己負担額は34,190円。もし、この金額だけを民間の介護保険で保障するのであれば、介護の期間が10年であったとしても約410万円である。

40歳くらいの人であれば、結果として保険料は月々1,000円で抑えられる。もし、保障額を3,000万円と設定したならば、その保険料は6倍になる。そうなると、家計を圧迫することは間違いない。

保障を積み上げるのではなく差し引いて考える

その他、要介護になった原因ががんによるものであれば、がん保険などの給付も期待できる。さらに、要介護状態になって、身体障がいや精神障がいの認定を受けることができれば、障害基礎(厚生)年金を受取れる可能性が高くなり、介護保険に求める保障はさらに低くなるかもしれない。

保障を積み上げるのではなく、保障を差し引いてあげられるのが本当の意味でのプロの仕事ではないだろうか。

(この記事は、週刊インシュアランスに掲載したものを転載したものです)

保険のランキングの本

保険のランキングの本

友人のFP(ファイナンシャルプランナー)がSNSに、「今年も協力させていただきました」と投稿していた。協力させていただいたのは、生命保険のランキングの本。保険商品の実名を挙げて商品のランキングをすることが本の趣旨。SNSに投稿した友人に他意はない。単純に本を見てくださいという意味。私はというと、数年前まで協力させていただいていたが、数年前に協力するのをやめた。2,000円の図書カードをもらって、商品のランキングを提出し、編集はそれを集計して、『有名FP〇名によるランキング』として記事にする。2,000円しかもらえないなら、その程度の仕事になるのは当然である。そんな仕事を続ける意味が見いだせなかったのでやめたわけである。

ランキング本はプロ向け

報酬の話は別にして、この手の本の存在価値に疑義があるのは、私の別のFPの友人が発した言葉に表れている。彼女が発したのは、『この本読むのは(消費者じゃなくて)プロだよね』という感想。私もそうだと思う。保険代理店の募集人が商品を勧める証拠のために、保険会社の直販社員が自社の保険商品の位置づけのために読むのだと思う。改めて見返しても、一般の消費者目線で書かれている本ではない

ライフプランに基づくキャッシュフロー分析が抜けている

さらに時代遅れだと考えるところは、保険を商品単位で比較しているところである。商品担当者が金融庁に説明するための資料ではないので、保険商品を比較しても意味がないのではないかと、私は思う。むしろ、FPが一般消費者に説明するのであれば、『あなたの(世帯の)ライフプランを基に将来の収支を予想するとこのような保障が必要です』というキャッシュフローや資産・負債の将来予想に基づく分析に立った保障ニーズを明らかにすることが必要であると思うが、そのような記述は全く見当たらない。

実は、FPの中で、将来のライフプランを予想して、キャッシュフローや資産・負債を予想することができる人はとても少ない。そこで、保険会社は自社のツールを作成している。FPの方に聞くと、キャッシュフロー表の作成は、〇〇生命のツールを使っているという人が多いように思われる。保険会社の作るツールが悪いというわけではないが、FPとして最適の保障を提供するための調整弁となるところが固定されてしまっているケースが少なくない。その結果、どのソフトを使っても結構高額な保障が必要という結果になる。FPが指摘するのであれば、『もっと必要保障額は少なくて大丈夫ですよ』と指摘するのが筋だと思う。

わからないから商品を比較して勧善懲悪型の結論を導く

結局、保険商品を比較するのが楽なのである。しかも、そこで登場するのは単品の保険商品だけである。アカウント型保険などは、『ダメな保険』という烙印を押されて撃沈することになっている。そして、収入保障保険や就業不能保険など、わかりやすい保険が登場して、あれこれと解説を付けられて、『最後は、A商品よりB商品のほうが保険料が安いのでよい商品』と締めくくられる。どうも、水戸黄門式の勧善懲悪のストーリーが背景にあるようである。勧善懲悪のストーリーになると、消費者にも受け入れられるということであろうか。確かに、こういった雑誌が、保険の窓口や保険見直し本舗の店頭に置いてあり、消費者がその本を見ながら保険の見直しの順番を待っているというシーンを想像するのであれば、勧善懲悪型の雑誌は役に立つかもしれない。

商品から出発してもニーズに辿りつけない

私たちは、FP側から、そろそろ保険商品から出発するというアプローチをやめる時期に来ているのではないだろうか。商品から出発するではなく、ニーズから出発する。それも、『入院すると平均して1日あたり〇万円必要です』というような作られたニーズではなく、消費者の本当のニーズである。消費者の本当のニーズを見つけ出すには、保険商品を当てはめるという意図抜きの面談を行って、消費者のニーズを明らかにした後で、保険には何ができるだろうと考えるステップが求められる。保険のランキングの本は役に立つだろうか?

この記事は、週刊インシュアランス(生保版)に掲載した記事です。