“よい保険、悪い保険”という企画にあまり乗らないようにしている。こちらはよい保険で、こちらは悪いというのはどこで区別するのだろう。模範的な解答をいえば、「保険契約者や被保険者のニーズに合った保険がよい保険で、合っていない保険が悪い保険」ということになるのだろう。しかし、書店で本が並んでいるとき、私たちは別のことを考えている。がん保険に加入したいけど、どこの保険会社の保険がよいのだろう。自分で比較することはできないので、だれかが比較しているものを見て参考にしよう。そして、比べる術がわからないので、保険料が安いということを尺度にして考えてみよう。結局、「保険料が安いのはどの保険なの?」というのが、よい保険、悪い保険の結論であったりする。
一方、保険会社の立場からすると、自分たちの保険商品は消費者のニーズに適っていると主張したいであろう。保険商品(Product)を作るとき、Promotion(プロモーション)、Price(価格)、Place(販売チャネル)を考えていない保険会社は存在しない。そして、Competitor(競合相手)の商品や営業戦略を分析し、Client(消費者)のニーズや動向を分析し、Company(自社)のリソースを勘案して保険商品は作られている。そういう考えに立って保険会社のパンフレットを見れば、どういったお客様に、どういった価格帯のものを販売したいのかという保険会社の意図が見えてくる。
しかし、保険会社の方もこういえば納得されるのではないだろうか。「すべての消費者のニーズを満たす商品はない」。消費者サイドと保険会社サイドのボタンの掛け違えがあるとすれば、この部分であると筆者は感じている。保険商品が全く役に立たないとは思っていない。しかし、商品が想定している属性の消費者以外の消費者に、そのまま適していない商品を販売することになるとトラブルの元凶になるのではないだろうか。
筆者は、先日、専門家とある属性の消費者がシニアライフについて直接討論するイベントに参加してきた。イベントが終了して、新幹線で東京に戻るときに、消費者がシニアライフを考えるための属性とは何かを改めて考えてみた。そこで思い浮かんだのが、P-LIESHという概念である。PはPeopleを表している。Peopleの周りに、Life(生活)、Income(収入)、Expense(支出)、Society(社会)、Health(健康)の5つの要素がある。シニア世代になって考えておきたいことを、消費者側から考えるとP-LIESHということになる。保険商品であっても、このスキームの上で分析して論じされるのが、本当の意味での、よい保険・悪い保険である。
もちろん、保険会社が保険商品を開発するために考えている4Pと3Cというのも大切な視点である。企業としての商品戦略がそこに凝縮されることになるので、これを分析することも意義がある。そして、それらを比較することも意義がある。しかしそれだけでは不十分である。消費者サイドからの分析が必要であり、それは、よい保険と悪い保険を保険料の安さで判定することではない。FPであれば、IncomeとExpenseを考えてくれるかもしれない。さらに、よくできたFPであれば、Lifeの一部までを考えてくれるかもしれない。でもそこまで行ってもP-LIESHの半分をカバーしているに過ぎないのである。そして、シニア世代が本当に気にしているのは、SocietyとHealthである。現役世代は、将来いかなるものにも換金できるお金が大切一番大切ということになるのだろうが、シニア世代ではより具体的に、地域の中で生きがいを持って過ごすこと、そして、そのためにも健康を維持することという具体的な目標があるのである。
商品を供給する立場から考えると「4P&3C」、需要する立場から考えると「P-LIESH」。よい保険と悪い保険は双方の視点から考える必要がある。