トレンド・アロケーション・オープンの投資戦術と資産運用の推移⇒一歩先の視点

ファンドの意思決定と運用推移

このファンドは、高リスク資産(先進国株式/新興国株式/先進国リート/コモディティ)と低リスク資産(先進国国債/先進国社債/新興国国債/短期債券・キャッシュ等)に分類して、上昇トレンドの高い時は高リスク資産に多く投資し下方リスクの高い時には低リスク資産に多く投資するバランス型ファンドです。ファンドの運用は三菱UFJ国際投信ですが、実質的にはアリアンツ・グローバル・インベスターズが担当します。

コロナウィルスの影響で各国の市場が大きく値を下げていく中、このファンドがどのような対応をしたのか分析します。このファンドは2月末の時点で約57%の資産を株式などの高リスク資産に配分していました。株式市場全体を表すTOPIX(東証株価指数)は、すでに、2月に10%以上値を下げていました。

ファンドが独自に投資判断をしたのは、3月6日です。この日にファンドは定期的な月次のリバランスで、高リスク資産の比率を13.5%引き下げ、43.4%にしました

次に、3月13日には臨時のリバランスを行いました。これは、このファンドが、「直近1年の最高値から15%以上基準価額が下落したときにはリスクを引き下げる」という方針を採っているためです。3月17日には、高リスク資産の比率は0%になりました。3月末時点のレポートを見ると、このファンドの資産は、78%が日本国債、13%が米国債、8%が現金に配分されています。

このファンドの投資判断をもとに、上図を見ていただくとよいと思います。投資の意思決定があった3月9日は3月第2週に含まれ、3月17日は3月第3週に含まれます。

3月第3週以降は、ほかのバランス型ファンド(eMAXIS8資産均等)や市場(TOPIX)と比較して値動きの幅が小さくなっていることがわかります
リスクを管理するというこのファンドの当初の目論見は、果たせていることがわかります。

一歩先への視点

このファンドで覚えておいてほしいことは、リスクを絞るときは満足を得られるのですが、市場が上昇局面になったときに再び高リスク資産への配分を高めるタイミングが難しいということです。このタイミングが遅れてしまうと、左図で「Aの部分」で示した部分の損失が確定することになるからです。ファンドなので、損失の確定は基準価額に反映されます。

ほかのファンドほど、基準価額が上がらない(運用が悪い)という状況になります。
市場から逃げるという判断は簡単なのですが、市場に戻るという判断は簡単ではありません。ファンドのリスクを抑えようとするのであれば、どうしても高リスク資産の比率を引き上げるタイミングは遅れがちになると思われます。

リスク低減型と呼ばれるファンドは、市場の下降局面には強いのですが、上昇局面に入ったときに、リスク資産への投資を維持しているファンドに比べて運用パフォーマンスが落ちることが想定されます。

2019年の株式市場から学ぶべきこと~その2

2019年の株式市場から学ぶべきこと~その1」はこちら

さて、一歩話を進めるとすれば、どうしてそうなったの?という原因を明らかにしておくことである。2018年は、年の半ばに米中の貿易戦争ともいうべき状態が勃発した。米国が貿易赤字に業を煮やし、相手国に個別に関税の引き上げをちらつかせながら交渉を行い始めた。その影響がはっきりと表れたのが2018年であった。ちなみに、米国の経済は減速したわけではない。ただし、2018年の年末にかけてその兆しはあった。債券市場で逆イールドという状況が出現したからである。

景気悪化の前兆といわれる逆イールド(カーブ)

2019年に入って米国では、トランプ大統領がパウエルFRB議長に圧力をかけ金利を引き下げることに成功した。トランプ大統領は、米中貿易協議でも、市場に気を持たせながら1年かけて、なんとなく一部の合意に至った。FRBはトランプ大統領の求めるように金利を引き下げ、英国のBrexitの混乱による一時的な落ち込みはあったものの、2019年は各国の株式市場が、最終的には、史上最高値を更新し続ける市場になった。

覚えておくと役に立つことは、「日本円」という資産クラスである。為替は、普通、外国株式や外国債券の騰落率の中に組み込まれている。2018年の、円ドル為替は、2.7%円高に動いたのである。円高になると、外貨建て資産は、(為替ヘッジをしていなければ)一様に影響を受ける。

景気が悪くなると、投資家は安全資産に資金を戻す。日本円は、安全資産の一つと考えられている。だから、円高になる。円高は外貨建て資産の大敵である。円高は株安と同時に起こることが考えられる。

さらに、理解しておきたいことは、米国市場は史上最高値を更新し続けているということである。つまり、株式はとても高い評価を受けているわけである。株式がどの程度の評価を受けているのかは、

PER(株価収益率=株価÷1株当たり純利益)

で測ることができる。

しかし、

実際の市場で考えられているPERは、「株価÷1株当たりの予想される純利益」

である。予想される純利益が引き下げられたら、PERが変わらないとすれば株価が下がることになる。市場で付けられている株価は、予想の業績に基づく数値なのである。37万台しか自動車を生産しない電気自動車のテスラモーターズの時価総額が、GMとフォードの2社の時価総額の合計額を超えたと、2020年1月に報じられた。これも同じである、テスラモーターズの予想される純利益が大きいので、株価が高くなる。同じ理由で、予想が覆ると株価も大きく損なわれることも容易に理解できる。

この記事は、「週刊インシュアランス」に掲載したものを、出版社の許可を得て転載したものです。