資産運用は集約化されている

ファンドはどんどん集約化、巨大化している

ファンド・オブ・ファンズなどの運用形態を使えば、すでに運用されている他のファンドに投資することが可能になります。運用成績の良いファンドを選んで投資することができるため、「後出しじゃんけん」のようにリスクを減らすことができます。その結果、世界的に実質的な運用拠点は集約化されてきています。

ファンド・オブ・ファンズは後出しじゃんけん

ファンド・オブ・ファンズというファンドがあります。世界的に広く使われている運用形態です。ファンドがほかのファンドに投資する。ファンドをできるだけ簡単に組成する(立ち上げる)ときに有効な手法です。

一からファンドを立ち上げようとすると、運用資産を集めるところから始めなければなりません。しかし、ファンド・オブ・ファンズを使えば、すでに運用され、運用履歴(トラックレコードといいます)のあるファンドに投資することができますから、後出しじゃんけんのようなものです。よいファンドだけをピックアップしてくれば、結果として、よいファンドができ上がるという仕組みです。

資産運用の集約化

ところで、ファンド・オブ・ファンズの流行は、世界的な運用機関に資金が集約されるを意味しています。日本の運用会社が、米国株式に投資するときに、現地に拠点を作って運用を始めるよりも、運用実績のある現地の運用会社のファンドに投資してしまうほうが合理的なのです。

実は、ファンド・オブ・ファンズによらない運用においても同じような実態があります。日本の運用会社が運用している外国株式ファンドや外国債券ファンドの多くは、その運用の主要な部分は海外の運用機関に運用を再委託しているのです。各社のホームページから請求目論見書をダウンロードして運用に関する記述を探してください。信託約款(運用会社と受託銀行の間での運用の取り決めをした契約内容)があれば、運用の再委託についての記載があります。海外の具体的な運用機関の名称が記載してあり実質的な運用は海外で行われていることが確認できます。

この事実を、運用会社の側から見れば、運用の拠点はどんどんと集約して巨大化しているということになります。例えば、ETFやETNの運用は運用会社ブラックロックがガリバー化しています。
また、米国株式のアクティブ運用であればフィデリティ、国際債券のアクティブ運用であればPIMCO、新興国のアクティブ運用であればJPモルガンというように、資産クラスによって集約化される運用会社(マネージャー)が固定化していることも知っておくとよいでしょう。

この記事は、「投資信託エキスパートハンドブック」のリメイク版の一部です。

まとめる前に考えよう

雑誌や新聞に記事を書かせていただいていると、その雑誌や新聞がどのようなポジションにあるのかということを考えさせられる。一般的に、一般誌(紙)は不特定多数の消費者に向けて情報を発信している。「この夏のボーナスではじめたい投資信託」というようなタイトルで記事がされる。タイトルはとても大切で、タイトルが人の心をつかむものでなければ記事は読まれないからである。

業界誌(紙)の場合はどうだろう。業界誌(紙)といった業界メディアの役割は、少し変わってきたように思える。数十年前、私も保険会社に勤務していたが、業界誌(紙)から情報を得ることが少なくなかった。当時の仕事は、朝、出社して、複数の新聞(一般紙と業界紙)に目を通し、これはと思う記事を切り抜いてまとめて社長以下の役員に配って回ることであった。現在のようにインターネットで情報を入手することができず、各社の出すニュースリリースなどをまとめてくれる業界メディアはありがたいものであった。

しかし、インターネトにより情報が瞬時に手に入れられるようになった現在、業界メディアの役割は変わってきたように思う。新たな業界メディアの役割は、3つに分類される最初の一つは、統計情報を創り出すビジネスである。資産運用の世界では、株式や債券などの市場インデックスがこれに該当するであろう。保険業界では、生命保険文化センターが公表している各種調査報告が該当するであろう。保険研究所が発行しているインシュアランス統計号も該当する。官公庁が出している統計情報も含まれる。「世の中の平均は・・・」という説明を行うときに必要になる情報である。この種類の情報を創り出すことは有料ビジネスとして成り立つ。

二つ目の役割は、要約機能であろう。「押さえておきたい外貨建て保険のチェックポイント」などというタイトルが付けられる記事がこれに該当する。現在では、情報が氾濫して、営業職員レベルではすべてをチェックすることは不可能である。だから、そういった情報をまとめてわかりやすく提供しようというのが要約機能である。現在の業界誌(紙)は、要約記事で構成されているといっても過言ではない。

三つ目の役割は、営業の前線の情報を配信する機能である。営業上のノウハウなどの情報を非公式に交換する場を提供するというものである。メディアといっても、新聞や雑誌というよりは、メールマガジンといった形態になるであろうし、メンバーを厳選すれば、SNSなどを通じて双方向で情報の交換ができる。

本当に望ましいのは、世の中の平均を理解した(一つ目の機能)上で、営業現場で起こっていることを知り(三つ目の機能)、そして、情報を要約する(二つ目の機能)ということが求められるのだと思う。しかし、現実はそのようにはなっていない。私が執筆の依頼を受けるときも、「〇〇についてまとめてください」という依頼を受けるのがほとんどである。「△△について問題提起をしてください」という依頼は受けたことがない。雑誌や新聞については、まとめの部分も必要なのだが、問題提起の部分も必要なのではないだろうか。

問題提起があると、その次には自分で考えるというステップが必要になる。これが大切だと思うのだが、すべてまとめの記事だと、回答が全部載っているテストのようなもので、マニュアルにはなるが身には付かない。さらに、情報を要約してしまうとカンニングペーパーのようになってしまう。

カンニングペーパーにしておけばどのようなときでも対応できると考えているかもしれないが、実は、全く逆である。人前で話す場合にも、相談を受ける場合でも、相手に満足してもらえる結論を出すには、自分で考えた下地が必要なのである。要約した情報しか知らなければ、相手に伝えられることは要約した情報だけである。結果は説明できても、理由は説明できないということになる。まとめばかりするメディアよりも、問題提起をしてくれるメディアの方がよい情報を与えてくれるものである。