予定利率の引き下げとインフレ、そして、商品開発❷

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ところで、2016年度の保険商品の各社の発表会には参加させていただけなかったが、保険会社各社は中長期的な対応を考えているように思う。主力のがん保険の分野で、独自の予定給付利率を使うようになっているアメリカンファミリー生命の商品開発は自社の強みを生かした競争力の強化のように思える。三井生命が外貨建て保険に注力しているのも、標準責準の予定利率の引き下げに対応する一つの手段であろう。さらに、オリックス生命が低解約返戻金型の保険から無解約返戻金型に商品の幅を拡張しているのも、同じように今どきの商品力アップの戦術であると思う。

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これらの保険会社の戦術を一言でいえば、『保険料を引き下げるという潮流からは外れないで、独自のやり方で保険料を引き下げ、保険商品の魅力を維持する』ということになるだろう。(FPの好きそうな話ではあるが)『標準責準の予定利率が引き下げられたけど、保険料を引き下げたくないので事業費を削ります』、という保険会社はあるのだろうか。おそらくないと思う。だから、そんなことをしたら利益率が下がるのでほかの方法を考えましたというケースが称賛されるべきであるが、前述のとおり影響力の大きな雑誌や新聞でもそれは期待できない。それどころか、FP向けの雑誌であっても編集部は保険のことをあまり知らないので商品開発の意図までは理解できていない。そうなると、そのような新聞・雑誌を読んだ一般消費者やFPが、保険のことをあまり理解できないことを責めるのはできないだろう。

予定利率の引き下げとインフレは、相反する事象である。ちょっと古い言葉を使えば、予定利率の引き下げはテーゼ、インフレはアンチテーゼ、そして、商品開発はジンテーゼということになるであろう。メディアを追っているとテーゼしか目に入ってこない。しかし、保険募集人にしてもFPにしても、本当に大切なのはアンチテーゼを提示できる能力かもしれない。

この記事の図表は、2016年4月、週刊東洋経済に掲載されたものであり、本文は、2016年5月、週刊インシュランス(生保版)に寄稿したものです

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予定利率の引き下げとインフレ、そして、商品開発 ❶

週刊東洋経済(2016年4月23日号)の取材を受けた。「マイナス金利に負けない!マネー術」という特集であった。構成は、第1部が資産運用、第2部が商品選び、そして、第3部が家計防衛術という構成。編集部の意図は、「マイナス金利⇒予定利率の低下⇒保険料高騰⇒家計への負担増加」というものであった。そして、家計への負担を緩和させるために家計防衛術というロジックである。記者が取材に来られて、直接お話しをうかがったが、企画の少し論点がずれているように感じた。いや、一般消費者が読者であることを考えれば論点はずれていないのかもしれない。残念ながら、一般消費者にとって保険の評価の第一は安い保険料であることである。だから保険料を引き上げる要因は言及しておいて然りという構図は否定できないかもしれない。 “予定利率の引き下げとインフレ、そして、商品開発 ❶” の続きを読む

「くらすプラス」から読み解く保険会社の商品戦略

チューリッヒ生命の新商品「くらすプラス」

チューリッヒ生命の新商品「くらすプラス」の商品説明会に参加してきた。「くらすプラス」は働けなくなったときに、収入を補てんするというコンセプトの就業不能保険である。詳しい商品の概要は、同社のウェブサイトを参照してほしい。医療保険が供給過剰となり、かつてブルーオーシャンの領域であった医療保険が、供給過剰状態(レッドオーシャン)になるなかで、就業不能保険は、最近、各社が開発に注力している保険の分野である。

説明会のプレゼンテーターであったチューリッヒ生命の、チーフ・マーケティング・プロポジション・オフィサー(以下CMPO)の野口氏は、この状態を、『各社が競争をしていく中で、商品自体が認知されていくので望ましい』とコメントしている。

就業不能保険が流行る理由

図表1 就業不能保険のポジショニング

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就業不能保険には商品開発を加速する要素がある。それは、日銀が採るマイナス金利の影響である。商品説明会で野口CMPOが言及していたのが、「標準責任準備金用の予定利率(第一生命の解説がよくわかります)が 2017年4月に、現行の1%から0.25%に引き下げられるであろう」ということである。標準責任準備金用の予定利率の計算についての詳細は金融庁の告示を参考にしてほしい。マイナス金利の影響で国債の応募者利回りが下がり、標準責任準備金用の予定利率が引き下げられる。終身保険などの貯蓄性の高い保険では、保険料の引き上げにつながり、保険商品としての魅力は著しく損なわれることとなる。だから、生命保険各社は、この時期、終身保険などの貯蓄性の高い商品の開発に及び腰になるわけである。

(責任準備金の積み増しが保険会社の利益に与える簡単な例はこちらを参照)

一方、商品開発の余地という点で考えると、競合商品が多く存在する医療保険や定期保険の分野で(他社を差別化できる)魅力ある新商品を開発することは難しい。そうなると、これまで商品開発が及んでいない分野(ブルーオーシャン)で商品開発をしようというのは、合理的な帰結である。

図表1はそのことを簡単に示したものである。この時期、保険会社各社が、就業不能保険の発売を加速させている背景には、就業不能の分野に対するニーズが認められるという消費者側の理由のほか、保険会社側の理由も存在するのである。保険会社側のメリットは、次のようにまとめられる。

  • マイナス金利が長期化しても、商品の収支がマイナス金利の影響を受けにくい
  • 競合する商品が少なく、他社を差別化しやすい

年金の設定

図表2 年金期間は固定型?逓減型?

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就業不能保険の保障の主流は、就業不能状態になったときに年金を受取るタイプである。そしてこの年金の受け取りのタイプには、固定型と逓減型がある。固定型とは、あらかじめ定められた期間(たとえば10年)年金を受取るものである。逓減型とは、保険期間満了の時(たとえば65歳)まで年金を受け取るものである。

くらすプラスは固定型の商品設計になっている。説明会においては、『わかりやすいので固定型を採用した』と説明されていた。

固定型と逓減型の保険会社にとってのメリット・デメリットを比較してみよう。

固定型

  • 期間にバリエーションを持たせる(5年、10年など)ことで、保険料を調整しやすい
  • 期間にバリエーションを持たせる(5年、10年など)ことで、引き受けるリスクを調整できる
  • 若年齢と高年齢で保険料の差が大きくなる

逓減型

  • 契約の終期で負の責任準備金(ネガティブリザーブ)の問題が発生する
  • 長期間の契約を設定すると大きなリスクを引き受けることとなる
  • 若年齢と高年齢で保険料の差が大きくならない

筆者は、くらすプラスの年金が固定型になっているのは、保険会社のリスクコントロールであると推測している。消費者、特に、50代の人がこの保険に加入しようと思うのであれば、逓減型の方が保険料が安い。一方、30代の方がこの保険に加入しようとすると固定型の方が保険料が安くなると考えられる。つまり、チューリッヒ生命は、年金のタイプを固定型にすることにより、契約者のターゲットゾーンを絞り込んでいると推測するのである。また、後述するようにストレス性の疾患の保障を売りにしているため、ストレス性疾患で給付が長引くことを考えると、固定型にしてリスクを絞り込んでいると考えられる。

就業不能の定義

図表3 就業不能と要介護

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就業できなくなったときを保障するのが「就業不能保険」なのであるが、以下のようなケースが考えられる。

  1. がんになって入院をして働くことができない
  2. 脳梗塞になり入院して、障害が残った
  3. 認知症のため、公的介護保険の要介護に認定された

よく考えると就業不能保険と介護保険はよく似ている保険であることに気づくであろう。就業不能状態と要介護状態の重複している部分はかなり大きい。

各社の就業不能保険においても、就業不能状態とは、a.特定の疾病により働くことができない状態、b.要介護状態になったとき、c.その他の場合に分類できる。

「くらすプラス」では、

(1)がん、脳卒中、急性心筋梗塞、肝硬変、慢性腎不全により60日以上入院または在宅療養した

(2)病気やケガによる所定の高度障害状態に該当

(3)ケガにより所定の身体状態に該当

(4)ストレス性疾病に罹患して60日以上の入院した

というのが、就業不能の定義になっている。野口CMPOに(1)から(4)までの発生予想について、全体を100%としたときのウェイトを質問した。回答は、(4)の割合が高く、次いで、(1)という順序であった。(具体的なウェイトについての言及はなし)

保険会社から考えると、(2)は通常の死亡保険にも含まれている基礎率であり、(3)は傷害保険の保険料が低廉なことを考えれば、(2)と(3)について保険会社は大きなリスクを引き受けているとは考えにくい(発生する確率は低いと考えられる)。

残るは、(1)と(4)であるが、(1)については「糖尿病」についてのリスクを避けたとの説明があった。糖尿病は合併症が考えられるため、保険会社として慎重な対応をしたということであろう。(4)については、チューリッヒ生命の“売り”であるが、予想される給付確率は最も高い。ストレス性疾患は給付が長期化することが考えられるため保険会社としては、一定の水準でリスクを遮断したいところである。就業不能の年金のタイプを固定型にすることにより、リスク管理を行っていることは前述した。

チューリッヒ生命が期待する契約形態

チューリッヒ生命は、30代から40代の人たちに、「くらすプラス」の契約者になってほしいと考えているであろう。想定する月払保険料は、配布された資料から推定すると平均して5,000円程度。また、「くらすプラス」は特約として販売されるということであるので、同社の医療保険である「終身医療保険プレミアムDX」の上乗せ契約として販売されるので、主契約と併せて1万円程度の月払保険料を期待しているのではないだろうか

親和性のある販売チャネルは、ほけんの窓口、保険見直し本舗などのショップ型代理店と推測する。ショップ型代理店では医療保険は販売の主力になっているが、今後、公的保障などを勘案した給付の見直しが中心になっていくものと考えられる。「くらすプラス」は代理店のニーズに適う。銀行チャネルでは商品内容が複雑すぎるように思える。

手数料については、手元に全く資料がないので本当の予想になってしまうが、初年度については、最大で保険料の50%程度を手数料として支払うように感じられる。(1)不担保期間が設定されているので最初に2か月に給付が発生することはほとんど考えられないこと(2)特約になっているので、保険契約にかかる診査料などコストを抑えられることの2点が手数料にプラスに働く。

「くらすプラス」をどのように考えるべきか

一般消費者にとって

現在の公的医療保険の水準や医療の進歩を勘案すると、保険に対するニーズは、現行のタイプの(保険会社の)医療保険から、就業不能保険のようなタイプの保険へとシフトしていくことが考えられる。そういった意味で、「くらすプラス」は、消費者のニーズを先取りした商品と考えることができる。また、ストレス性疾病についても積極的に保障している点も評価できる。

保険の見直しを考えるのであれば、何かを削らなければ保険料は高騰する。その際のリストラの候補は、既存の医療保険かもしれない。

ファイナンシャルプランナーにとって

消費者のニーズとともに、保険商品の中の先進性と保守性を併せて評価できるようになればよい。「くらすプラス」についても、商品説明会で明示されたこと、明示されなかったことを含め、保険会社としてのリスク管理にも考えが及ぶようになればよい。特に、ブルーオーシャンといわれる領域では、(予想以上の給付が発生しないように、発生したとしてもその損失を限定できるように)適切にリスク管理することが重要である。保険会社はリスク管理についてすべて公表するわけではないので、公表されている資料から類推することが大切になってくる。給付の比較をすることは商品分析の一つではあるが、全部ではない。会社の商品戦略、他社や隣接業界との競合、販売チャネルとの親和性などを踏まえて商品分析を行うことが重要である。

その上で、消費者の視点で保険商品を考えるとよいだろう。『消費者の視点で保険商品を分析する』ことと『消費者と同じ程度の知識で商品を分析する』ということは異なる。

図表4 予定利率引き上げが利益に与える影響【例】

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筆者 杉山 明

バームスコーポレーション有限会社代表 一般社団法人シニアコンシェルジュ協会理事

外資系保険会社で商品開発、外資系運用会社でファンドの評価分析などの経験を有する、独立系のファイナンシャル・プランナー。

8月第4週の市況

2016/8/22    月 

米国ではサンフランシスコ連銀ウィリアム総裁が早期利上げに沿った発言をし、株式・国債ともに低下。米国市場はバリュエーションの観点からも調整。欧州市場では国民投票を控え不良債権問題が顕在化しているイタリアの銀行が軟化

2016/8/23    火

Fedのフィッシャー副議長が、利上げの条件が整いつつあることに言及し、ドル高、商品安、国債安。日銀の黒田総裁は更なるマイナス金利に言及。欧州市場ではシンジェンタが米当局からChemChinaの買収に承認を受け上昇。資源関連は軟化したが市場は上昇

2016/8/24    水

米国では、新規住宅販売が堅調な一方、製造業PMI指数が予想外に落ち込み、Fedは早急に利上げに走らないのではという観測が台頭。SP500は史上最高値付近まで上昇し原油価格も上昇。欧州では、BHP、アングロ・アメリカンなど資源関連株と英国の住宅関連が堅調で市場は上昇

2016/8/25    木

米国では一部の製薬会社の薬価上昇について議員が反発、製薬株が値を下げ、市場全体も値下がり。原油については備蓄が上昇したことから価格下落。欧州では英国のグレンコアが業績不振で値を下げたが、イタリアのUnitCreditが資産売却の影響で2日連続で上昇。銀行株の値上がりで市場全体も堅調

2016/8/26    金

米国では前日に引き続きクリントン候補などから、急激な薬価引き上げについて非難されているMylanが値を下げた。欧米市場ともイエレン議長の金曜日のスピーチ前で小幅な値動きながらリスク資産は売却。ドイツでは8月のIFO指数が芳しくなかった

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公的保障の補完と考えてみよう

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これまで障害年金、介護保険、障害福祉と3つの公的分野を紹介してきました。これらの制度は、重複する部分はあるものの、全体として考えれば、より広範な範囲を公的に保障するものです。

私たちは、「要介護状態になったときに考えたいこと(不安に感じていること)」を、もう一度、考え直す必要があります。高年期では、「要介護状態から仕事ができるように回復する」というニーズより、「要介護状態になったとき延命措置を取らないでほしい」というニーズの方が高いのではないでしょうか。

高年期のニーズをもう一度洗い直すこと、そして、その中で公的な保障がカバーしてくれる部分を明らかにすると、自ずと民間の介護保険に求められるものが絞り込まれるのではないでしょうか。

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