ところで、2016年度の保険商品の各社の発表会には参加させていただけなかったが、保険会社各社は中長期的な対応を考えているように思う。主力のがん保険の分野で、独自の予定給付利率を使うようになっているアメリカンファミリー生命の商品開発は自社の強みを生かした競争力の強化のように思える。三井生命が外貨建て保険に注力しているのも、標準責準の予定利率の引き下げに対応する一つの手段であろう。さらに、オリックス生命が低解約返戻金型の保険から無解約返戻金型に商品の幅を拡張しているのも、同じように今どきの商品力アップの戦術であると思う。
これらの保険会社の戦術を一言でいえば、『保険料を引き下げるという潮流からは外れないで、独自のやり方で保険料を引き下げ、保険商品の魅力を維持する』ということになるだろう。(FPの好きそうな話ではあるが)『標準責準の予定利率が引き下げられたけど、保険料を引き下げたくないので事業費を削ります』、という保険会社はあるのだろうか。おそらくないと思う。だから、そんなことをしたら利益率が下がるのでほかの方法を考えましたというケースが称賛されるべきであるが、前述のとおり影響力の大きな雑誌や新聞でもそれは期待できない。それどころか、FP向けの雑誌であっても編集部は保険のことをあまり知らないので商品開発の意図までは理解できていない。そうなると、そのような新聞・雑誌を読んだ一般消費者やFPが、保険のことをあまり理解できないことを責めるのはできないだろう。
予定利率の引き下げとインフレは、相反する事象である。ちょっと古い言葉を使えば、予定利率の引き下げはテーゼ、インフレはアンチテーゼ、そして、商品開発はジンテーゼということになるであろう。メディアを追っているとテーゼしか目に入ってこない。しかし、保険募集人にしてもFPにしても、本当に大切なのはアンチテーゼを提示できる能力かもしれない。
この記事の図表は、2016年4月、週刊東洋経済に掲載されたものであり、本文は、2016年5月、週刊インシュランス(生保版)に寄稿したものです