パターン・ランゲージ

パターン・ランゲージ”という言葉を聞いたことがあるだろうか。

パターン・ランゲージとは

パターン・ランゲージとは建築家のクリストファー・アレクサンダーが提唱した知識記述の方法です。アレクサンダーは、建物や街の形態に繰り返し現れる法則性を「パターン」と呼び、それを「ランゲージ」(言語)として記述・共有することを提案しました。(井庭崇+井庭研究室著「プレゼンテーション・パターン」慶応義塾大学出版会)

先日、パターン・ランゲージを採り入れた研修に参加してきたがとても役に立った。研修というと、私たちは、「参加したいけど参加できないから、レジュメだけ後で見せて」と話すことがしばしばある。レジュメを見れば、研修の内容がわかるというのが、この場合に、私たちが考えていることである。

しかし、私が参加した研修はレジュメを見ても、「はてさて、何の話だろう?」ということになる。実は、簡単なスクリプトが書いてあり、それに対して、参加者が考えたことを発言しあう。最後にそれをまとめる。簡単な内容なのであるが、私たちは、こんな簡単なことが案外できていない

大学生のゼミなどは比較的自由にモノが言える。しかし、社会人になると状況は変わる。自由な発想をすると、「お前のいっていることはデキナイ」と発想を押さえつける上司がいる。外部や組織の上層部から流れてくる情報を、自分が咀嚼できないから、組織内に情報を流入させない私がいる。理由を考えずに前例を踏襲することを覚えてしまった部下がいる。組織として知識を活用できない、創造できないとなると組織は退化する

研修では簡単なスクリプトだからこそ、読み手はいろいろなことを考える。そこには前例もなければ、情報の非対称性もない。同じ条件で自分が考えたことをグループのほかの参加者に伝える。他人から聞かされたことで、また違った考えが思いつく。それらをまとめるときに、情報は欠落するが、そこに参加している人はその欠落した情報を覚えている。まとめられたものがレジュメになる。レジュメだけ見た人と研修に参加した人の差はそこにある。そう考えると、よいレジュメとは、そのレジュメを通して、書かれていない周りの情報に気づかされるようなものかもしれない。

パターン・ランゲージの研修と似て非なるものが、ロール・プレイングの研修であろう。ロール・プレイングの場合、一定の解答が用意してあり、その解答にどのように近づける(収束する)ことができるのかが求められる。一方、パターン・ランゲージの研修は、思考がどんどん発散していく。発散したものが再び収束して、それがパターンになれば知の共有ということになるのだろう。ロール・プレイイングとパターン・ランゲージではベクトルが全く逆といえるだろう。

実社会では、社会的な背景や組織の上下関係、情報の非対称性など全部排除して純粋に思考を発散させる場は考えている以上に少ないのではないだろうか。ワークショップ形式の研修のメリットはそこにあるのかもしれない。私たちの周りには、”営業のノウハウを教えます”式の研修はたくさんあるが、”営業のノウハウを作りましょう”式の研修はあまりない。しかし、営業のノウハウは、ノウハウが大切なのではなく、ノウハウを創り上げていく過程で経験できることが大切なのだと思う。

冒頭、私が紹介した書籍は、プレゼンテーションに関するパターンをまとめた本である。この本には、「〇〇はこうあるべし」といったノウハウはあまり書かれていない。この本で提案されているのは、「創造的プレゼンテーション」である。プレゼンを聞く人たちの思考を促進させ、想像力を豊かにし、新しい発見を誘発するきっかけをつくるのが「創造的プレゼンテーション」だと説明されている。