日本で初めて変額年金保険を作ったとき
外資系の生命保険会社で商品設計を担当していた筆者は、20世紀の終わりごろ、日本で初めての変額年金保険の設計に没頭していました。それまで、前例のない商品を日本に持ち込むわけですから、手探りでさまざまな仕組みを考えなければなりませんでした。心を砕いた取扱いの一つに、「変額年金保険でどのようにポートフォリオを提供するべきか?」という問題がありました。
具体的にいえば、(1)あらかじめ一定の比率で日本株式や海外債券といった資産クラス(パーツ)を組入れたいくつかのタイプから投資家に好みのものを選択してもらう方法を採用するのか、それとも、(2)日本株式、海外債券といったパーツごとに投資家が投資する割合を自由に指定できる方法にするのかという問題でした。わたしたちは、あらかじめ組み合わせが決まっているということで、(1)を「定食」方式、自由に組み合わせを選ぶことができるということで、(2)を「ア・ラ・カルト」方式と呼んでいました。この定食方式と、ア・ラ・カルト方式、つぎのような一長一短がありました。
長所 | 短所 | |
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定食方式 | 投資の知識がなくても投資配分を決めることができる | 投資の知識が豊富な投資家には物足りなさが残る |
ア・ラ・カルト方式 | 投資家ニーズに自在性をもって対応できる | 投資経験が少ないとサポートが必要 |
ア・ラ・カルト方式を選択して失敗した理由
結局、わたしたちは、ア・ラ・カルト方式を選択しました。そして、その選択は失敗でした。なぜなら、当時、わたしたちは、「資産クラス」といわれてもあまり馴染みがなく、ましてや、「アセット・アロケーション(資産配分)」などといわれてもチンプンカンプンの人が圧倒的に多かったのです。自分でポートフォリオを組み立てるア・ラ・カルト方式は時期尚早だったわけです。
私は、『金融商品はそれを受け容れる人がいて始めて成立するものである。』ということに気づかされました。
この話を、金融商品を購入時点での判断に活かすのであれば、『理解できないものには手を出さないほうがよい』といえるでしょう。わたしたちが全体として金融商品を取捨選択していくことにより、よりよい金融商品だけが残っていくことになるのです。
金融教育や金融知力が必要なのは、良質な金融商品を育てる土壌となるからなのです。
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