インフレとくらしの関係~後半

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賃金は上がるだろうか?単純に最低賃金を上げればよいのだろうか。2022年6月時点で、東京都の最低賃金は1041円である。神奈川県も1000円を超えていて1040円になっている。最低賃金で週30時間、4週間働くと考えれば、月収は12.5万円程度となる。家計の問題ととらえて「この収入で東京都で暮らしていけるだろうか」と考えると、答えは「否」であろう。では、最低賃金を引き上げて月収20万円くらい確保できるようにしたらどうだろうか。賃金を受け取る側はうれしいかもしれないが、賃金を支払う側は、雇用を手控えることになるだろう。そうすると、高い最低賃金を受け取れるのは、一握りだけで、職に就けない人が増えてしまう。失業率の上昇になる。

やはり、賃金上昇は別のアプローチが必要という結論に帰結する。企業の所得(利益)が上昇すれば、株主や従業員への分配が増える。企業の所得を増やすには、売上高を伸ばせばよい。売上高は、価格×販売数量に分解できる。企業が販売する価格を上げるか、販売する量を増やせばよいということになる。企業の販売価格が上がれば、生産者物価が上昇し、その結果、消費者物価が上昇する。結果的に、物価が上がるが、この物価上昇は悪い物価上昇ではない。日米欧の中央銀行(日銀、FRB、ECB)はインフレの目標水準を2%程度に定めている。低いとは思えないこのインフレ目標、「賃金が上がって、インフレも発生して、それが2%程度なら健全な経済成長になっているという」意味なのであろう。

米国の中央銀行FRBではインフレを測るときに、消費者物価指数ではなく、個人消費支出を使っている。個人消費支出は、商品の価格の変動ではなく、使ったお金の変動を表す指標である。消費者物価指数が、私たちのくらしのコストを代表する値なのかはチェックすべきである。

収入の代表値も人によって異なる。賃金のほかに、資産運用や不動産収入も考えられる。年金が収入の大きなウェイトになることもある。収入の内訳によって、インフレ(くらしのコストの上昇)の評価は変わるであろう。

「賃金の伸びから物価の上昇を差し引いた数値がプラスであれば、私たちのくらしは安心」というテーマに立ち返れば、賃金の伸びもインフレも人によって評価が異なるので、その差額であるくらしに対する安心感も同じではないということになる。

この記事は、週刊インシュアランスに掲載されたものを、出版社の許可を得て転載したものです。保険関係者に好評の生命保険統計号もこちらからご購入いただけます。

イ ンシュアランス掲載記事

 

インフレとくらしの関係~前半

数十年ぶりに物価の上昇が話題になり、参議院選挙の争点にもなっている。与党側は、「日本の物価上昇は欧米に比べて低く抑えられている。だから政権運営はうまくいっている」と主張している。一方、野党側は、「確かに、日本の物価は欧米ほど上がっていないが、欧米は賃金が上がっている」と主張している。この主張、どちらも間違っていない。しかし、二つ合わせるともっとわかりやすい主張になる。「賃金の伸びから物価の上昇を差し引いた数値がプラスであれば、私たちのくらしは安心」ということである。

日本が世界各国と比べて少し異なるのは、政府の借金が多いことである。対GDP比で、日本政府の債務(国債残高)は250%を超えている。アメリカは133%、イギリスは109%、ドイツは73%であることを考えれば日本の国の債務の大きさがわかるであろう。2022年度末には1,026兆円になると見込まれている日本の国債の発行残高をベースに簡単な試算をしてみよう。もし、利回りが1%なら、金利負担額は1026×1%=10.3兆円である。利回りが2%であれば、その倍となり、20.6兆円となる。金利が1%増加するだけで、支出は10兆円も変動する。2022年度予算の国の歳出(支出)は107.6兆円なので、10兆円は9%に相当する。欧米各国に比べて、日本は「金利が上がってほしくない」と思うより強い理由が存在することがわかる。金利が上がらなければ、物価は上がらない。日本の物価が上がらないのは、金利が上がらないことが一因である。

後半に続く

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