元本払戻金に変更された特別分配金

分配金の説明で最重要な「元本払戻金」

ファンドが収益分配金を支払うと、支払った金額に応じて、基準価額が下がります。場合によっては、収益分配金を支払うと、投資したときの基準価額(個別元本)を下回ることになります。このとき、個別元本を下回った部分を、従来は「特別分配金」と呼んでいましたが、「元本払戻金」と呼ばれるように取扱いが変更されました。

金融庁の監督方針の変更

運用会社や証券会社を監督する立場にある金融庁は、2012年2月に、その監督方針を一部変更しました。この中に、「投資信託の分配金に関して、分配金の一部又は全てが元本の一部払戻しに相当する場合があることを、顧客に分かり易く説明しているか」というチェック項目が加えられることになりました。

金融庁の動きを受けて、投資信託協会では、2012年3月、ファンドを購入するときに受け取る目論見書と、原則として決算ごとに交付される運用報告書の内容を改正することを決めました。これが、私たちが受け取る書類に直接影響を及ぼす内容です。どういったファンドであるか概要がわかるようになっていますが、その中で、「ファンド購入後の運用状況により、分配金額より基準価額の値上がりが小さかった場合、分配金の一部又は全部が、実質的には元本の一部払戻しに相当する場合がある」ことが明記されるようになります。

特別分配金がなくならない理由

ところで、その時まで目論見書や運用報告書では、「特別分配金」という言葉が使われていました。特別分配金には、『分配金であるけど元本の払い戻しと考えられるので、この分配金には課税しない』という意味があります。この特別分配金の表記が、「元本払戻金(特別分配金)」に変わったのです。これなら、元本の払戻しの意味がすぐにわかります。単に「元本払戻金」だけでよいように思うのですが、所得税法施行令という政令に「特別分配金」の言葉が入ってしまっているので、カッコ書きで残したようです。特別分配金は税法上の言葉になっているので残しておかなければならなかったわけです。

この記事は、「投資信託エキスパートハンドブック」のリメイク版の一部です。

ファンドと資産運用残高

資産運用残高がパフォーマンスを向上させる

アクティブ運用にしても、パッシブ運用にしても、ファンドの運用は規模の経済が成り立つ世界です。大きな資産残高があれば、運用担当者を増加やすことができるため(アクティブ運用)、ベンチマークと同じような比率で有価証券を購入することが可能になり(パッシブ運用)、ファンドのパフォーマンスを向上させることが可能です。

資産運用は規模の経済が成り立つ

資産運用の世界は規模の経済が成り立ちます。日本の株式に投資する投資信託(ファンド)を考えてみましょう。AファンドとBファンドです。Aファンドは(運用)資産残高が10億円、一方、Bファンドは1,000億円。いずれのファンドもファンドの維持・運営にかかる費用など(信託報酬)が、年間資産残高に対して1%であったとします。Aファンドは年間1,000万円でファンドを維持し、運営しなければなりません。一方、Bファンドは10億円。Bファンドでは余裕を持ってファンドの維持・運営をすることが可能で、また、利益も上げることができそうですね。

アクティブ運用の場合

仮に、Aファンドがアクティブ運用のファンドであったとしましょう。アクティブ運用にも種類がありますが、Aファンドは個別銘柄の割安感を測って投資するバリュー株投資を運用方針に掲げていたとします。そうすると、ファンドは、運用方針に適った割安な株式を見つけ出さなければなりません。企業のリサーチが必要になります。財務諸表上のデータだけではなく、場合によっては、会社を訪問して直接、経営陣などから話を聞く必要があるかもしれません。つまり、手間がかかります。ファンドとしてある程度のパフォーマンスを上げるためには、相応の資金が必要ということになります。

パッシブ運用の場合

パッシブ運用のファンドであったとしたら、どのように考えればよいでしょう?パッシブ運用の基礎となる考え方は、もしベンチマークがTOPIXであったとしたら、TOPIXと同じ比率でファンドも同じ銘柄を保有することがパッシブ運用の原則です。

TOPIXとの乖離を小さくするために、0.1%の単位まで同じ比率にしようと考えたとします。Aファンドの資産運用残高の0.1%といえば、100万円になります。もし、Aファンドが100万円分、ファーストリテイリングの株(51,880円2018年8月28日/単元株100株)を購入しようとすると、まったく購入できません。その結果、Aファンドでは、ファンドの規模が小さいことが原因となり、TOPIXと連動させることができないということになります。

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