何が起こった
2016年6月23日、欧米市場では、英国はEUに残留すると踏んでいた。ポンドが上昇し、市場の短期的な不安定さを示すVIX指数が低下。株式市場は上昇していた。ところが、24日、ふたを開けてみると英国民はEU離脱を選択した。24日の市場では、ポンドは下落し、VIX指数が上昇、欧米市場は銀行株を中心に下落し、その一方で、日本円が上昇した。
英国の国民投票前後の市場の動き【参考】
2016/6/23 木 米国では、5月の住宅販売が好調であったが、英国の国民投票を前に市場は薄商い。欧州市場は、銀行と保険株がけん引して市場は上昇
欧米市場では英国のEU離脱はないと判断。米国ではVEX指数が低下し、ポンドと銀行株が上昇。欧州でも銀行が強く、特に、債券イールドが低下したイタリアの銀行が恩恵を被る
2016/6/27 月 英国のEU離脱決定によりバークレイズ、RBS、ロイズといった銀行が20%以上値を下げ、銀行・保険を中心に欧州市場は8%程度の値下がり。米国市場も連動して値を下げたが、相対的に安心ということで値を戻し小幅な下落にとどまる。イングランド銀行は2500億ポンドの追加供給を表明し、ECBも所要の対応を取るとコメント
2016/6/28 火 Brexitから週が明け、RBS-15%,バークレイズ-17%など銀行株が大幅安。イタリアの銀行については資本注入が検討されているとの報道。ブリティッシュエアウェイズを傘下に持つIAGも-16%。米国市場でもSP500が-1.8%、資源関連、銀行が安い
※欧米市場は前営業日の内容
風が吹けば桶屋が儲かる
日本のメディアは気が早く、英国のEU離脱が日本に与える影響を早々とまとめていたし、有名な経済評論家の先生は、『風が吹けば桶屋が儲かる』式の指摘であるが、金融にかかわる者として何らかの答えを用意しておくべきだと思う。ちなみに、証券関係者はこういった問答に強く、保険関係者は弱い。証券会社が扱う商品は、価格が変動することが当たり前になっており、その動きはあらかじめわかっているものはない。だから、こうなったとき、市場はこのように動き、こうなればその反応が変わるというという説明に慣れている。一方、保険関係者は、本社のしかるべき人に聞けば答えを教えてくれると思っている。
されていた。短期的な動きは為替市場、長期的な動きは株式市場
英国の話に戻ろう。私たちが知っておきたいことは、市場には短期的な動きと、長期的な動きがあるということである。日本のメディアが飛びついたのは短期的な動きであり、特に、為替の動きである。英国の先行き不安からポンドが下落し、密接なつながりがあるユーロも弱含み。相対的に米国のドルが値上がりし、さらに影響が少なく安全資産として見られている円が上昇。円が上昇すれば、日本の企業は打撃を受ける。これが、『風が吹けば』の部分である。
しかし為替市場が恐れているのは、リーマンショックのときのように、金融機関同士のデリバティブの決済に支障が発生することである。そうならないように、各国の中央銀行は、銀行の資本増強を強制し、ストレステストを繰り返してきた。実際、今回も、 している。おそらく、リーマンショックの時のような混乱には至らないと考える。風が吹くのはほんの一瞬ではないだろうか?
為替の次は、株式である。中長期的な株式の動きということになるので、実体経済そのものである。日本でも日立製作所や日産自動車は英国の拠点で製品を製造し、それをEU内に供給することを戦略にしている。英国とEUの間に関税等の障壁が復活し、こういったビジネスモデルが影響を受けるようになるのであれば、英国、EU双方にとって大きな痛手になる。こうなれば、本当に大きな風になってしまうが、このような不利益に英国が陥ってしまうのだろうか?
このように考えると、短期的な動きは中央銀行が連携して対応する(結果は為替の安定)、中長期的には、経済的な不利益を発生させるようなことはない(結果は株価の安定)ということになり、残るのは移民の問題などの政治的な問題だけになる。『桶屋が儲かる』事態にはならないと考える。
Brexitから学ぶこと
むしろ私たちが気をつけておきたいことは、日本が英国のような状態になったときである。何らかの理由で大幅な円安になる。そうすると、日本の国債は値下がりするので、銀行や保険会社の株価は大きく下がる。円安が一時的なものでないのであれば、銀行や保険会社の格付けは下がる。日本国債にリンクする個人が保有する資産の価値も下がる。個人で対応できることは、事前に、日本国債にリンクしない資産を保有しておくことである。『風が吹けば桶屋が儲かる』式の説明ではなく、 ように心がけよう。
(本原稿は2016年6月25日までの情報に基づき執筆し、週刊インシュアランスに掲載された記事を転載しています)