相談について~その2

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相談の意味付けができると、ゴールに向かって進むことができる。このゴールが、『行動プラン』と『安心プラン』に分かれる。

行動プラン』から話を始めよう。『行動プラン』で一番わかりやすいのは、保険である。Aさんに相談してみたら、「生きていく上のリスクがわかったので、そのリスクに対応するためにX社の保険に加入した」というようなケースである。「相談してリスク納得して、そのリスクを打ち消すために保険に加入して安心した」というわけである。わかりやすいケースであるが、このパターンに当てはまるのは、100件の相談があれば5件以下ではないだろうか。

『行動プラン』は、“問題解決”と言葉を置き換えるとよくわかるだろう。相談者の問題を解決してくれる解決策を提案してくれて、それに向かって行動するというのが、『行動プラン』である。前述のケースであれば、問題解決策が保険であり、そのための行動は、保険に加入することである。

一方、『安心プラン』とは、名前のとおり、安心することができるプランという意味である。例えば、シングルマザーのAさんを考えてみる。家計に余裕がなく、保険料に充当できる金額も1万円程度だとしよう。Aさんは、自分が病気になったときのことを考えて医療保険に加入したほうがよいのかを、FPのCさんに相談したとしよう。「△△共済の医療タイプであれば月額2000円で加入できますよ」という回答は『行動プラン』「Aさんがお住まいの東京都であれば、通院の場合、月額1万8千円以上の自己負担は発生しませんよ」という回答は、『安心プラン』になる。もし、Aさん世帯が住民税非課税であったなら、「Aさんのケースだと入院も通院も、Aさんもお子さまも医療費は全額補助になりますよ」という回答になる。Aさんは、何も行動しないが、安心を得ることができる。相談の目的はこれで達成されることになるので、『安心プラン』がAさんにとっての解答ということになる。

行動プラン』と『安心プラン』は、どちらが優れているというものではない相談の2つの軸と考えておくとよいであろう。何らかの行動が不可欠と相談者自身が納得したとき、『行動プラン』が必要になる。Aさん御ケースでいえば、お子さまが18歳以下のときは、医療保険は必要ないかもしれないが、19歳になってしまうと公的な保障は途絶えることになる。そうなると、民間の医療保険が必要という判断になるかもしれない。『安心プラン』の先に、『行動プラン』が必要になるときもある。

FPがライフプラン分析と呼んでいるものは、相談に他ならないと、私は理解している。相談者の個人情報を聞き出すのがライフプラン分析ではない。キャッシュフロー表を作成することがライフプラン分析ではない。相談者の置かれている、社会的・経済的環境を勘案して、現在と将来のリスクを明らかにすることがライフプラン分析であり、それは、相談者とFPの相互作用という観点から定義すれば、「相談」ということになる

相談で大切なことはもう一つある。それは、ほかの専門家に任せることである。相談業務はそれ自体、専門性を必要とする業務であるが、その結果としての『行動プラン』の専門家は、相談業務とは別に存在することが少なくない。FPの場合、保険募集人を変えている割合が多いために、どうしても、『安心プラン』より、『行動プラン』、中でも、保険を中心とした解決策にたどり着くケースが少なくない。これでは、相談業務の専門家としては失格である。相談の本質は、相談者自身に意思決定をゆだねることにある。FPの務めは、問題の整理と手伝い、相談者自身が意思決定できるように適宜情報を提供することにある。したがって、相談者が出した結論をさらに深化させる専門家が必要なときには、その専門家にケースを引き継ぐことも必要になってくる。

この記事は、「週刊インシュアランス」に掲載したものを、出版社の許可を得て転載したものです。

相談について~その1

ファイナンシャルプランナー(FP)が行う「相談」について考えてみたい。本質的なところから話を始めたいので、「『相談』は何のためにするのか」という問題から始めたい。相談した側は、何らかの成果を得て相談を終わりたいだろう。問題は、「その成果が何か」ということである。私は、成果は2つあると思っている。一つは、『行動プラン』を手に入れること、そして、もう一つは『安心プラン』を手に入れることである。いずれかをしっかりと提供することができれば、その相談は成功だと思う。

FPのみなさまが相談を受けたら、相談者についてきっとたくさんのことを知りたいと思うだろう。相談は、そこから始まっていく。でも、30代の人に、「あなたが60歳になったときのことを予想してください」といってもわからないだろうし、「ご主人の年収を教えてください」、「ご両親のことをもっと詳しく教えてください」と話しても、『いきなりそんなに個人的なことまで話したくない』と思われるかもしれない。

ここで、取りうる選択肢は2つある次回の面談のアポイントメントを採って、早々に切り上げる方法。もう一つは、相談者を説得しようとする方法。「僕はFPの資格も持っていて、MDRTなんです。今まで、数百人の方の相談を受けて、みなさまに満足いく結果をお返ししてきました」という具合である。こうなったケースは何件も聞いている。自分のアピールばかりで相談になっていない。もちろん、望ましいのは、次回のアポイントメントを採って早々に切り上げること

相談者が自分であると置き換えて考えてほしい。私であれば、いきなり初見の人に自分のプライベートをべらべら話すことはしない。何度か面談をしていくうちに、相談者との関係が出来上がってくる。そして、そのころには知りたかった情報は、自ずと収集できていることがほとんどである。

そしてもう一つ、相談者がなぜ相談に来たのかも理解できているはずである。実は、相談しに来るといっても、相談の目的が明確になって相談に来るケースは少ない。自分がなぜ相談に来たのかわからないケースもある。無理やり連れてこられたというケースもある。だから、面談を繰り返して、やることは、その相談の意味付けである。何のための相談かがわからなければ、解決策にもたどり着けないわけである。

残念ながら、こうすれば相談の定義づけをできるというマニュアルはない。相談者に応じて、無駄な回り道をしながら、相談者と相談の意味付けを作り上げていくことが求められる。

さらに、大切なことは、「相談者は保険の相談に来ているとは限らない」ということを理解しておくことである。保険の相談はFPのところに来る相談の一部であって全部ではない。しかし、FPを見渡すと、その7~8割は保険関係者という事実がある。これは大切なことで、相談を受ける側が、相談者の相談を、勝手に保険の相談にしないことが大切である。

その相談の意味付けができたと思ったら、相談者のいる前で、その内容を文字に置き換えるとよいだろう。五感で一番強いのは視覚である。だから、これまで考えたことを、目に見える形にしておくことはとても大切である。相談のマイルストーン(節目)といっても過言ではないだろう。私の場合、文字だけではなく、図なども含めてホワイトボードに描いていき、最後にできあがったものを、写真で撮ることが多い。もちろん、相談者にも写真を撮ってもらう。

これは私の感覚かもしれないが、パソコンで打った文字よりも、手書きの文字のほうが記憶に残る。そして、相談者自身がホワイトボードに何か書き込んでくれたなら、それはより確かなマイルストーンになると思う。

相談の全般を通じて、相談の中心は相談者であるということを意識したほうがよい。相談を受ける側は、どうしても、自分の持っている知識やノウハウを提供したいという衝動に駆られると思うが、専門家としての意見の披露は小出しにして、相談者の意思を引き出すように心がけたい。

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この記事は、「週刊インシュアランス」に掲載したものを、出版社の許可を得て転載したものです。