まとめる前に考えよう

雑誌や新聞に記事を書かせていただいていると、その雑誌や新聞がどのようなポジションにあるのかということを考えさせられる。一般的に、一般誌(紙)は不特定多数の消費者に向けて情報を発信している。「この夏のボーナスではじめたい投資信託」というようなタイトルで記事がされる。タイトルはとても大切で、タイトルが人の心をつかむものでなければ記事は読まれないからである。

業界誌(紙)の場合はどうだろう。業界誌(紙)といった業界メディアの役割は、少し変わってきたように思える。数十年前、私も保険会社に勤務していたが、業界誌(紙)から情報を得ることが少なくなかった。当時の仕事は、朝、出社して、複数の新聞(一般紙と業界紙)に目を通し、これはと思う記事を切り抜いてまとめて社長以下の役員に配って回ることであった。現在のようにインターネットで情報を入手することができず、各社の出すニュースリリースなどをまとめてくれる業界メディアはありがたいものであった。

しかし、インターネトにより情報が瞬時に手に入れられるようになった現在、業界メディアの役割は変わってきたように思う。新たな業界メディアの役割は、3つに分類される最初の一つは、統計情報を創り出すビジネスである。資産運用の世界では、株式や債券などの市場インデックスがこれに該当するであろう。保険業界では、生命保険文化センターが公表している各種調査報告が該当するであろう。保険研究所が発行しているインシュアランス統計号も該当する。官公庁が出している統計情報も含まれる。「世の中の平均は・・・」という説明を行うときに必要になる情報である。この種類の情報を創り出すことは有料ビジネスとして成り立つ。

二つ目の役割は、要約機能であろう。「押さえておきたい外貨建て保険のチェックポイント」などというタイトルが付けられる記事がこれに該当する。現在では、情報が氾濫して、営業職員レベルではすべてをチェックすることは不可能である。だから、そういった情報をまとめてわかりやすく提供しようというのが要約機能である。現在の業界誌(紙)は、要約記事で構成されているといっても過言ではない。

三つ目の役割は、営業の前線の情報を配信する機能である。営業上のノウハウなどの情報を非公式に交換する場を提供するというものである。メディアといっても、新聞や雑誌というよりは、メールマガジンといった形態になるであろうし、メンバーを厳選すれば、SNSなどを通じて双方向で情報の交換ができる。

本当に望ましいのは、世の中の平均を理解した(一つ目の機能)上で、営業現場で起こっていることを知り(三つ目の機能)、そして、情報を要約する(二つ目の機能)ということが求められるのだと思う。しかし、現実はそのようにはなっていない。私が執筆の依頼を受けるときも、「〇〇についてまとめてください」という依頼を受けるのがほとんどである。「△△について問題提起をしてください」という依頼は受けたことがない。雑誌や新聞については、まとめの部分も必要なのだが、問題提起の部分も必要なのではないだろうか。

問題提起があると、その次には自分で考えるというステップが必要になる。これが大切だと思うのだが、すべてまとめの記事だと、回答が全部載っているテストのようなもので、マニュアルにはなるが身には付かない。さらに、情報を要約してしまうとカンニングペーパーのようになってしまう。

カンニングペーパーにしておけばどのようなときでも対応できると考えているかもしれないが、実は、全く逆である。人前で話す場合にも、相談を受ける場合でも、相手に満足してもらえる結論を出すには、自分で考えた下地が必要なのである。要約した情報しか知らなければ、相手に伝えられることは要約した情報だけである。結果は説明できても、理由は説明できないということになる。まとめばかりするメディアよりも、問題提起をしてくれるメディアの方がよい情報を与えてくれるものである。

元本払戻金に変更された特別分配金

分配金の説明で最重要な「元本払戻金」

ファンドが収益分配金を支払うと、支払った金額に応じて、基準価額が下がります。場合によっては、収益分配金を支払うと、投資したときの基準価額(個別元本)を下回ることになります。このとき、個別元本を下回った部分を、従来は「特別分配金」と呼んでいましたが、「元本払戻金」と呼ばれるように取扱いが変更されました。

金融庁の監督方針の変更

運用会社や証券会社を監督する立場にある金融庁は、2012年2月に、その監督方針を一部変更しました。この中に、「投資信託の分配金に関して、分配金の一部又は全てが元本の一部払戻しに相当する場合があることを、顧客に分かり易く説明しているか」というチェック項目が加えられることになりました。

金融庁の動きを受けて、投資信託協会では、2012年3月、ファンドを購入するときに受け取る目論見書と、原則として決算ごとに交付される運用報告書の内容を改正することを決めました。これが、私たちが受け取る書類に直接影響を及ぼす内容です。どういったファンドであるか概要がわかるようになっていますが、その中で、「ファンド購入後の運用状況により、分配金額より基準価額の値上がりが小さかった場合、分配金の一部又は全部が、実質的には元本の一部払戻しに相当する場合がある」ことが明記されるようになります。

特別分配金がなくならない理由

ところで、その時まで目論見書や運用報告書では、「特別分配金」という言葉が使われていました。特別分配金には、『分配金であるけど元本の払い戻しと考えられるので、この分配金には課税しない』という意味があります。この特別分配金の表記が、「元本払戻金(特別分配金)」に変わったのです。これなら、元本の払戻しの意味がすぐにわかります。単に「元本払戻金」だけでよいように思うのですが、所得税法施行令という政令に「特別分配金」の言葉が入ってしまっているので、カッコ書きで残したようです。特別分配金は税法上の言葉になっているので残しておかなければならなかったわけです。

この記事は、「投資信託エキスパートハンドブック」のリメイク版の一部です。