ライフプラン分析~30歳・世帯【その6】

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ライフプラン分析~30歳・世帯【その6】

世帯の情報

ご主人が30歳の家族のライフプラン分析です。

世帯主 川口 拓也さん(30歳)
配偶者 美咲さん(28歳)
お子さま 夕夏さん(0歳)

公的(老齢)年金

65歳以降のキャッシュフロー表を作成するときに大切になるのが公的年金です。その中でも大切になってくるのは老齢年金です。公的年金は一定の年齢に達したとき以降受け取る老齢年金のほかに、障害を持った場合に受け取れる障害年金、世帯主が亡くなったときに受け取れる遺族年金があります。障害年金や遺族年金も大切な年金なのですが、最初に、知っておきたいのは老齢年金です。

公的年金は、一般的に2階建てといわれています。図表34を参考にしてください。1階部分は国民年金です。国民年金は基礎年金ともいわれています。国民年金は40年間、もれなく保険料を支払っていると年額78万1700円の年金を65歳から受け取ることができます。覚えておいていただきたいことは、金額が定額であるということ。そして、この金額は毎年更新されるということです。

さて、30歳の川口さんが将来受け取る年金を見積もるとき、いくらと見積もればよいのでしょう?実は、答えはありません。30年後の78万1700円がどれほどの価値があるのかを考えると、金額は少し上乗せされて考えるべきでしょう。

図表34 公的年金のしくみと年金額の決まり方

2階部分は、厚生年金保険が該当します。2階部分がある人は、第2号被保険者だけです。川口様のお宅の場合、現在働いているのはご主人の拓也様だけです。ご主人の拓也様だけが第2号被保険者となっています。美咲様は、所得のない第2号被保険者の配偶者(被扶養配偶者といいます)になります。

厚生年金保険で知っておきたいことは、老齢厚生年金の年金額は、働いていた期間や給与によって変わってくるということです。現在の基準で計算することは可能ですが、拓也様が65歳に達する35年後の金額はきっと変わっているでしょう。基礎年金と同じですね。

公的年金の概要【日本年金機構】

年金を受け取るのは65歳??

老齢年金の受取り開始年齢は、以前は60歳でした。その後、法律が改正されて、65歳になりました。といっても、ある日を境に、「あなたは60歳から、あなたは65歳から」というわけにはいきませんでしたので、数十年かけて、年金の開始年齢を65歳に引き上げたのです。ちなみに、まだ引き上げ中です。これが、現在の状態。

現在、財務省や厚生労働省を中心に、この年齢を引き上げることが検討されています。人生100年時代で、65歳から年金を受け取り始めると…ちょっと年金を受け取る期間が長すぎるということですね。

公的年金を予想してみよう

拓也様の国民年金については、現在の給付金額(78万1700円)を1%の利回りで増やした金額とします。つまり、

78万1700円×(1+0.01)35=110万7358円

とします。現在、キャッシュフロー表ではインフレ率を2%としていますが、年金の増加分はそれに満たないという仮定です。金額は大きくなっていますが、実質的には減額されている見積もりです。

美咲様の国民年金についても、同じように考えます。

78万1700円×(1+0.01)37=112万9616円

拓也様の厚生年金保険についても考えてみましょう。図表35のように計算できます。平均標準報酬額を45万円と仮定し、被保険者の期間を492か月(41年)と仮定しています。

図表35 厚生年金保険の年金額の試算

キャッシュフロー表に反映させる金額は

127万9811円×(1+0.01)35=181万2983円

になります。

キャッシュフロー表を作成するときに仮定は、図表36のようになります。金額を単純に合計すると300万円に少し足りないくらいの水準になることがわかります。

図表36 夫婦で受け取るの年金額の試算

図表36に示した年金額を受け取ると仮定して、キャッシュフロー表を計算し直してみましょう。65歳以降の収支のマイナスが緩和され、資産の減少が緩やかになりますが資産が減少することに変わりはありません。

図表37 キャッシュフロー表の計算結果

つづく

所得代替率

「所得代替率」とは、年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合か、を示すものです。この所得代替率は現在60%程度ですが、政府は2046年には50%程度に引き下げると見積もっています。名目上の金額が増えても、実質的な金額が増えなければ所得代替率は下がっていくことになります。

所得代替率については、立憲民主党の長妻議員が衆議院で質問しています。

年金制度の所得代替率に関する質問主意書

質問に対する答弁書も公開されていますが、年金で生活できるか、政府も真正面から回答できていないように思えます。

年金制度の所得代替率に関する答弁書

ライフプラン分析~30歳・世帯【その5】

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ライフプラン分析~30歳・世帯【その5】

世帯の情報

ご主人が30歳の家族のライフプラン分析です。

世帯主 川口 拓也さん(30歳)
配偶者 美咲さん(28歳)
お子さま 夕夏さん(0歳)

期間を延長する

キャッシュフロー表の期間は、現在、30年ですが、10年延ばして40年にしてみましょう。40年後、拓也さんは69歳、美咲さんは67歳になっています。そうすると、きっと拓也さんは定年を迎えていますね。定年について、現在では65歳にすることが原則になっています。この年齢は、引き上げられる方向にありますが、ここでは65歳に退職金を受け取ると仮定します。

それでは、退職金の金額はいくらが妥当でしょう?これも人によって“マチマチ”というのが本当のところです。公務員だと退職金は手厚くなっているでしょうし、外資系などではそもそも退職金がないところもあります。退職金といっても、一時に受け取るケースだけではなく、現在では、退職年金を併せて受け取るケースが主流になってきています。

退職金

退職金について考えてみましょう。退職金に関する統計はいくつかあると思うのですが、ここでは、経団連が公表している「退職金・年金に関する実態調査結果」の数値を参考にしてみましょう。大卒で60歳に定年を迎える人で約2,200万円、高卒だと約1,850万円です。

図表29 退職金の平均

  大卒 高卒
年齢 60歳 2,211万円 1,850万円

2018 年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果(経団連等)より作成

管理・事務・技術労働者(総合職)の場合

退職金額は、退職金一時金のみ、退職一時金と年金併用 、 退職年金のみの場合の額を合算し、単純平均したもの

図表29の注釈にもあるように、退職金額は退職一時金と退職年金を合算したものになっています。どの程度の会社が、退職金を年金で支払っているのか、また、その年金はどのようなものなのかを説明したものが図表30になります。退職年金を導入している企業は8割をはるかに超えていること、年金制度では、確定給付企業年金と確定拠出年金(企業型)が主流になっていることがわかります。

図表30 退職金の支払われ方

確定給付企業年金は、企業が掛金を拠出(従業員の拠出も可能)し、運用の責任は企業が負います。運用損失を回避するために、予定利率はとても低い率に抑えられています。確定拠出年金(企業型)は、企業が掛金を拠出(従業員の拠出も可能)し、運用の責任は従業員自身が負います。利回りは、自分の運用の成果に基づきます。資産運用の成果が、将来の退職年金の金額に反映されるというわけですね。

確定拠出年金の概要【厚生労働省】

とりあえず、退職一時金だけを考えることにします。図表29や図表30を参考にして、退職一時金は1,000万円を受け取るものとします。計算すると図表31のようになります。退職一時金があるので一時的に収支が大きくプラスになっています。ちなみに、退職一時金の金額は約2,000万円で計算しています。これは、現在の1,000万円がインフレ率(2%)で金額を増やしたものです。

図表31 キャッシュフロー表を10年延ばしてみましょう

定年後の収入

ところで、退職一時金を受け取った後、収支が急激に悪化していますね。これは、65歳以降の収入について、まだ、検討していないからです。具体的には、労働することによって得る収入と年金収入、そして、投資による収入です。図示すると図表32のようになります。〇〇所得と書いてありますが、これは、そのまま国税庁のサイトに行って確認すれば、ほぼ所得税の所得項目になっていることがわかります。

図表32 定年後の収入

所得の種類【国税庁】

最初に考えておきたいのは、退職した後の給与収入と公的年金のことですね。現在、30歳の川口さんに退職後のことを考えろというのは酷なような気がしますが、退職しても、多くの人は、『体が動くうちは働きたい』と考えています。高齢者白書(令和元年版)によれば、「70歳を超えて働きたいと思っている人と働けるうちはいつまでも働きたいという人の割合は約8割にもなっています。

収入のことを考えることは、収入の源のことを考えることです。収入の源は、ライフイベントということになります。ライフイベントを紡ぎ合わせるとライフプランになります。現在では、『サラリーマンの方にとって定年は余生の始まり』というよりは、『シニアライフのライフプランを考える中間点』というほうが正確な表現なのです。

平均余命

平均余命を考えてみたいと思います。平均余命というのは、ある年齢の人が平均するとあと何年生きることができるかという数値です。ですから、平均余命は〇年と表示されます。0歳のときの平均余命のことを平均寿命といいます。平均寿命は、通常、〇歳と表示されますね。〇歳のほうが直感的にわかりやすいからでしょう。

図表33に平均余命の仮定を掲載しました。この数値は、国立社会保障・人口問題研究所が予想している数値の中で、「死亡率中位」(ほかに、死亡率高位と死亡率低位があります)の予想で、2055年の予想値です。2055年は、現在30歳の川口拓也さんが65歳になっている時期ですね。ちなみに、2015年時点の、男性の65歳の平均余命は「19.41年」です。35年間の間に3年弱平均余命が伸びるという予想ですね。

女性については、2015年の実際値が「24.24年」、予想値が「27.42年」ですから、こちらは3年以上平均余命が伸びると予想されます。

図表33 平均余命(65歳時)の仮定

2055年 男性 女性
65歳 22.14年 27.42年

日本の将来推計人口(平成29年推計)[国立社会保障・人口問題研究所]死亡率中位の場合

世帯で一つのキャッシュフロー表を作るのであれば、その終わりは、やはり配偶者を基準に考えるべきでしょう。今回のケースでも、世帯主の拓也さんは、65歳+23年=88歳、配偶者の美咲さんは、65歳+28年=93歳まで生きると想定できます。

人生100年時代

「人生100年時代」という言葉を聞いたことがありませんか?人生が100年といわれるようになったのは、安倍内閣が「人生100年時代構想会議」というものを創設したからです。

人生100年時代構想会議【内閣府】

その中で、ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授は、2007年に日本に生まれた子どもの平均寿命は107歳と示しました。ちょっと勘違いしないでいただきたいのは、2007年に生まれた人の平均寿命が107歳といっているのであり、現在30歳の人や50歳の人の平均余命が70年や50年といっているわけではないのです。

10数年前までは、キャッシュフロー表の終わりの時期は世帯主が80歳が定番でした。でも、今では、100歳とはいかないまでも90歳くらいまでは考えておきたいものですね。そして、世帯主ではなく配偶者の年齢でキャッシュフロー表の終わりの時期を決めるほうが合理的です。

つづく