A4サイズ1枚と意見具申~後半

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二つ目は、意見具申についてであった。意見具申とは、上官の意見と逆の考えを伝えることである。自衛隊という組織上、『意見具申などもってのほか』と思われそうであるが、区隊長は私たちに意見具申しろと伝えてくれた

ただし、「意見具申をしたうえで、命令が変わらなかったら、その命令に従え」というのが区隊長の教えであった。この教えも、実は、民間企業で働くようになっても忠実に守ってきた教えである。

組織はそのトップの能力以上に成長しない』といわれることがある。これは、部下から意見具申がされるかどうか、そして、その意見具申が時に応じて採用されるかどうか。そういう風土が備わっていない組織だと、『トップの能力以上に成長しない』という意味だと理解している。今となって、区隊長の言われたことは「『よい意見具申は、上司にとっても役に立つし、その上司が懐の深い人だと良い意見具申は聞いてくれるから、一度話してみなさい』ということであった」と理解している。

ところで、意見具申という言葉は、『アイデア出し』という言葉に置き換えると、いまどきの話になる。特に、非正規のメンバーからアイデア出しをもらうことができれば、組織は成長できるように思える。ところが、非正規のメンバーの組織への帰属意識が低く、言われたことだけをこなしているというのはよくありがちである。

マネジメント層だけでなく、いろいろな立場のメンバーが、アイデア出しを行うことによって、相互に気づきが生まれ、組織が成長していく意見具申は、組織の成長のための原動力ということであろう。

この記事は、週刊インシュアランスに掲載されたものを、出版社の許可を得て転載したものです。保険関係者に好評の生命保険統計号もこちらからご購入いただけます。

イ ンシュアランス掲載記事

 

A4サイズ1枚と意見具申~前半

もう35年ほど前のことになるが、私は陸上自衛隊の幹部候補生学校で教育を受けていた。その時の私たちの区隊の区隊長は、「I」の方であった。「I」とは、一般部隊出身のたたき上げで幹部になった人たちのことである。ちなみに、防衛大学校卒業生は「B」、防大以外の一般大学出身者は「U」と呼ばれていた。

当時、誰にでも盾を突いていた私であったが、不思議とその区隊長にだけは素直に従っていた。年齢に似合わず体力抜群で、そして、人当たりがよく、包容力がある。きっと、私は区隊長にあこがれていたのだと思う。

幹部候補生学校にいるのはわずか半年である。半年後には、全国各地の部隊に赴任することになる。幹部候補生学校の卒業間近になったある時、区隊長が私たちに手作りの小さな冊子を配ってくれた。そこには、区隊長が考える、『部隊に行ったときの幹部としてこのように行動すればよい』という内容が記されていた。おそらく十数項目あったと思う。もちろん、原本は失くしてしまってもうないが、そのうち2つは明確に覚えているし、それは、現在に至るまで私の行動規範になっている。

一つは、「言いたいことはA4サイズの紙一枚にまとめる」ということであった。区隊長曰く、「君たちは部隊に行ったら小隊長になる。小隊長としての報告先は中隊長。けれども、中隊長から見れば小隊長はあなた一人ではない。だから、数枚に及ぶ報告を書いても見られるのは最初の1枚だけ。だから、言いたいことがあればA4サイズの紙一枚にまとめなさい」ということであった。

実は、小隊長であろうと中隊長であろうと、あるいは、民間の組織に行っても、この教えは同じように効果がある。さらに、インターネット等によってオンラインでの会議などが増えた現在でも、同じように効果がある。

伝える側は、A4サイズの紙1枚に収まるように伝えたいことをまとめなければならない。まとめる作業は、繰り返すとレベルアップする

起承転結を考え理解してもらいやすいような表現を考え簡潔に説明することを考える。自衛隊においても、民間企業においても、あるいは、非営利組織においても、この部分は不変である。

(後半に続く)

この記事は、週刊インシュアランスに掲載されたものを、出版社の許可を得て転載したものです。保険関係者に好評の生命保険統計号もこちらからご購入いただけます。

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