外貨建て保険のKPI

金融庁外貨建て保険KPI(Key Performance Indicator)を導入することを公表した。報道発表資料では、「外貨建保険の販売会社において、これら2つの指標に関する自社の数値を公表することを期待します」となっているが、事実上の強制とみてよいであろう。KPIは、顧客が外貨建て保険商品を選ぶときの参考となる指標になるであろう。

投資信託にしても、外貨建て保険にしても、ベンチマークが定められていることが多い。ベンチマークには、主要な資産クラスごとの市場指数や、それらが複合されたものが用いられることが多い。『ベンチマークと同じような運用成果を目指す“パッシブ運用”であれば、公表されているベンチマークの推移だけを見ていれば運用の推移はわかる』と、事業者側は考えてきた。しかしそれは、どうやら間違いであるというのが最近の考え方である。

第一に、「投資家(保険契約者)は合理的ではない」。安いところで購入して、資産が十分に値上がりしたら売却するというのが理想の資産運用であるが、私たちは、得てして、逆の行動を採る。高くなったところで買って、安くなったら売るというパターンである。また、マーケットのリスク(ボラティリティ)が上昇してくると、途端にリスク回避的になり、投げ売りしてしまう。その結果、実際の投資家のリターンは、ベンチマークのリターンより大きく劣化していると思われる。米国では、代表的な債券の市場インデックス(7.67%)に比べて、債券ファンドの投資家のリターン(0.70%)が大きく劣ると指摘されている。

金融庁が導入した「運用評価別顧客比率」は、まさに、この投資家の本当のリターンを見える化したものであると考えられる。運用評価別顧客比率は、「購入時以降のリターンを算出し、全顧客を100%とした場合のリターン別の顧客分布を示したもの」と定義されており、これが事前に開示されていると、保険契約者は、実際のリターンの分布を確認して購入を決められることになる。注意が必要なのは、MVA(市場価格調整)などのペナルティがリターンの計算に含まれていないことである。

(続く)

この記事は、週刊インシュアランスに掲載されたものを、出版社の許可を得て転載したものです。保険関係者に好評の生命保険統計号もこちらからご購入いただけます。

イ ンシュアランス掲載記事

外貨建て保険のKPI~後半

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銘柄別コスト・リターン」は、代理店手数料を直接開示したくない保険会社や販売金融機関金融庁の折衷案かもしれない。金融庁としては、間接的にせよ、保険のコスト(代理店手数料)を開示するということができたということであろう。ただし、こちらは金融庁の資料が説明しているが、保有期間が長い契約ほど、平均したコストが割安になり、リターンが高く表示されるという傾向がある。「長期保有しましょう」という訴求力はあるかもしれないが、新規に外貨建て保険を購入するときに役に立つ指標ではない。

筆者は、「運用評価別顧客比率」のほうが、「銘柄別コスト・リターン」より、投資家に対する訴求力が強いものになると考える。とはいえ、保険は契約であり、情報は保険契約者だけにしか開示されない、つまり、新規に保険に加入するときに手がかりのない状態であったが、これが改善されることはとても良いことであると思う。

さらに要望を加えるとすると、顧客のリターンごとの契約の残存率が公表されているとさらに訴求力が上がると思う。おそらく、リターンが低かったものは早期に解約されてしまい、リターンが相対的に高かったものだけが残存していることが考えられる。少し複雑になってしまうが、ある年の新契約が、年ごとにどのようなリターンになり、どの程度、契約が残存しているのかがわかれば、とても参考になるように思える。

投資信託と比較ができることになれば、投資信託と外貨建て保険の相対的な位置づけがより明確になるのではないだろうか。

この記事は、週刊インシュアランスに掲載されたものを、出版社の許可を得て転載したものです。保険関係者に好評の生命保険統計号もこちらからご購入いただけます。

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